TOEICが上がらない本当の理由|研究が示す「高原」のしくみと抜け出す4つの条件

英語の授業をする外国人の先生と、英語の本を開いて勉強する学習者のイラストを並べた図。TOEIC 学習が続いても点が動かない時期の背景を、先生と学習者の視点で示唆する構図。 英語学習
英語学び直したいユーイチ
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先生、TOEIC の点が半年動きません。もう自分には無理でしょうか?

英語独学好きの助教S
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半年で動かないのは正常な学習過程です。DeKeyser 2007 の自動化 3 段階では、途中に必ず停滞期が現れます。

英語学び直したいユーイチ
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対策本を 3 冊 終わらせても伸びなくて、正直つらいです。

英語独学好きの助教S
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対策本の反復は反応時間の短縮には効きますが、Ellis 2005 の言う暗黙 知識には移りにくいのです。

英語学び直したいユーイチ
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じゃあ、どれくらい続ければ変わるんですか?

英語独学好きの助教S
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DeKeyser 2015 の目安は累計 200-500 時間。週 5 時間 なら 10 か月 が下限になります。

英語学び直したいユーイチ
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そんなに続けても動かない気がして、途中で諦めたくなります。

英語独学好きの助教S
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実は Krashen 1985 の閾値 効果で 5-6 か月目に突然反応します。停滞は伸びの前触れと考えてください。

結論: TOEIC が上がらない時期の多くは「高原効果」(= 力は伸びているのに得点に出ない期間、というイメージ) で、SLA (= 第二 言語 習得の研究分野) では想定内の現象です。抜け出すには 4 条件を同時に満たす必要があります [E01] [E03] [E09]。(1) 語彙 8000 語族まで積む。(2) 週 5 時間 以上の意味理解 input を続ける。(3) テスト対策と本質 学習を切り分ける。(4) 3-6 か月の endurance (= 続けきる粘り) を守る、の 4 つです。

この記事でわかること

  • なぜ TOEIC は伸びが「見えなくなる」時期があるのか
  • 高原効果の 3 つの学術的説明 (自動化 / 暗黙 知識 / 語彙 しきい値)
  • 対策本の繰り返しが伸びを止める mechanism (washback 理論)
  • 抜け出すために必要な 4 条件と週次スケジュール例
  • 何ヶ月で目安になる伸びが戻るか

1. 「TOEICが上がらない」— まず30秒で結論

英語学び直したいユーイチ
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4 条件って厳しそうです。全部同時にやらないとダメですか?

英語独学好きの助教S
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そうです。1 つ抜けると効果が薄まります。特に endurance の 3-6 か月 は最初に決めてください。

TOEIC で「同じ点数が 3-6 か月続く」時期は、多くの受験者に共通で起きます。学習を続けているのに得点が動かないと、努力が無駄に感じるものです。しかし SLA の研究では、この停滞期は正常な学習過程の一部です。

停滞の主な原因は 4 つあります。第一に、自動化 (= 反応を無意識に近く速くする過程、というイメージ) の途中で得点に反映されない期間です。第二に、暗黙 知識 (= 無意識で real-time 処理に使える潜在的な知識) の伸びが遅れて出る時期です。第三に、語彙 しきい値 (= 文章を理解するのに必要な単語量の壁) が未達です。第四に、テスト対策と本質 学習の乖離です [E01] [E03] [E04] [E06]。

対処の柱は 3 つです。時間軸を長く取ること。入力量を確保すること。テスト対策 以外の学び方も混ぜること。次章から一つずつ、研究に沿って解いていきます。

先に大事な前提を 1 つ共有します。この記事は「TOEIC 対策アプリを 1 か月やっても点が伸びない」という状況を想定していません。想定するのは「半年以上、週 5 時間 以上を投下しても点が動かない」パターンです。「1 か月」で伸びないのは、そもそも自動化に必要な累計時間が足りていないだけです。「半年 続けても動かない」場合が本記事の焦点です。この違いを最初に確認してから読み進めてください。

2. 研究が示す「高原」のしくみ — DeKeyser の自動化3段階

英語学び直したいユーイチ
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自動化って、僕の TOEIC でも起きているんでしょうか?

英語独学好きの助教S
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起きています。procedural から automatization への移行は反応時間の対数減少で見えないだけです。

DeKeyser 2007 [E01] の技能 習得の理論では、L2 (= 第二 言語) の技能は 3 段階を通ります。宣言的な知識 (= 「こう言えばいい」と説明できる metaknowledge、というイメージ)、手続き的な知識 (= 手順として動かせる知識)、自動化 (= 意識せずに使える段階) の順です。「自転車の練習で、こげるようになった後、無意識に曲がれるまでは同じ距離を走っても『できた感』が上がらない期間」がその中間で必ず生じます。

DeKeyser 2015 [E02] の後続 レビューを見ましょう。TOEIC の listening / reading で読める / 聞ける自動化に至るには、累計で 200-500 時間の focused input 経験 (= 集中して意味を追う input の合計、というイメージ) が目安と示されます。これは週 5 時間 続けて 10 か月〜2 年に相当します (200 ÷ 5 = 40 週 ≒ 10 か月)。

途中で停滞が現れるのは power law of practice (= 練習量の対数に伸びが反応するという法則、というイメージ) から来る正常な現象です。言い換えると、停滞期の裏で反応時間の対数減少は続いています。「電子ゲームで毎回同じ回数のミスを重ねていても、ある日突然壁を越える」感覚は、この tipping point (= 蓄積が閾値を超えて現象が変わる瞬間、というイメージ) の実感です。

DeKeyser の理論をもう少し身近な例で言い換えます。楽器の練習でも同じ現象があります。ピアノの初心者は、初月に「弾ける曲」の数がぐんと伸びます。しかし 3 か月目から半年目にかけて、新しい曲の習得速度が急に落ちます。この時期に本人は「才能がない」と感じますが、実は procedural (= 手順化) から automatization (= 自動化) への移行が進行中です。同じ曲を弾く速度、指の独立性、譜面を先読みする距離、といった measurable でない指標は伸び続けています。TOEIC の得点も、これと同じ構造の中で「見えない伸び」を続けているだけです。

3. TOEICが測っているのは「見える力」だけ — 暗黙知の話

英語学び直したいユーイチ
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暗黙 知識と明示 知識、僕は明示 側ばかり伸ばしてました。

英語独学好きの助教S
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多くの学習者に共通です。Ellis 2005 が示す通り reading と listening の意味 input を増やしてください。

Ellis 2005 [E03] は L2 の知識を 2 種類に分けます。暗黙 知識 (= 無意識で real-time 処理に使える知識) と、明示 知識 (= 意識的に metaknowledge として引き出せる知識) です。「野球の解説で『打ち方』は説明できる (= 明示) が実際は打てない、逆に打てるが説明できない (= 暗黙)」の関係です。両者は独立した心理測定 次元と Ellis は示しました。

TOEIC の穴埋め / 選択形式は、明示 知識を強く測る側面が強いです。暗黙 知識の伸びは得点に反映されにくい構造にあります。学習者が real-time で英文を追える速さが上がっていても、選択肢を metaknowledge で選び直せる範囲では、見かけの得点は動きません。

Segalowitz 2010 [E10] の meta 集約でも、fluency (= すらすら処理できる状態、というイメージ) は語の access speed の対数で伸びると示されます。初期 200 時間 未満では score 反映が遅れます。「料理を作る手さばきが速くなっても最初の 1 品目のタイムは変わらず、10 品目まとめての時間で初めて差が見える」現象と同じです。

暗黙 知識を伸ばす柱は、reading (= 読む) と listening (= 聞く) の意味重視 input です。文法問題の解説を読むだけでは伸びません。実際の文章や音声を意味を追いながら大量に浴びる時間が必要です。

さらに、Ellis 2005 [E03] のもう一つ重要な指摘があります。明示 知識を大量に持っている学習者は、metaknowledge を無理に引き出して選択肢を選ぶ習慣がつきやすいのです。この習慣は反応時間を延ばし、TOEIC listening の速い読み上げに対応できなくなります。「試験の解説を読み込んでいる人ほど、聞き取り本番で 1 問遅れる」現象は、明示 知識への依存の副作用です。暗黙 知識の育成は、この副作用を薄めるためにも必要になります。

4. 語彙 8000 語の壁 — Nation の lexical threshold

Nation 2006 [E04] の corpus 分析 (= 大量の文章 データを機械で数える研究手法、というイメージ) を見ましょう。英語 novel を 98% coverage (= 知らない単語が 2% 以下) で読むには、receptive vocabulary (= 見て聞いて分かる語彙) が 8000-9000 word family (= 派生形をまとめた語族単位、というイメージ) 必要と示されます。新聞は 8000、映画は 6000-7000 語族が目安です。

「50 音のうち 5 音がわからない歌を聴いても歌えないのと同じで、2% の未知語が全体理解を止める」構造です。5000-8000 の途中では「大意はわかるが細部が抜ける」状態が続きます。この状態では TOEIC reading の推論 (= 書かれていないことを行間から読む) 問題が正解しにくく、得点が動きません。

Cobb 2007 [E12] は同じ数値を英語一般 corpus で再検証しました。5000 → 8000 の間には約 3000 word family × 5-8 encounter (= 1 語につき 5-8 回の出会い) = 15000-24000 語の遭遇が必要です。週 30-60 分の extensive reading (= 楽な多読、というイメージ) では 6-12 か月かかります。「貯金箱に 3000 個の 100 円玉を入れるのに毎週 30 個入れて 2 年」の時間規模で、単純にサボると足りません。

対策としては、Graded Reader (= 語彙を段階的に絞った学習用の本、というイメージ) や英語ニュース サイトの平易版が使えます。毎週 4-6 冊 / 記事、意味を追って読むのが目安です。同じ語彙が異なる文脈で 5 回以上出会うと、暗黙 知識に定着する確率が上がります (Schmidt 1990 の noticing 効果 [E08])。

具体的な水準の見分け方も示しておきます。今の自分が読む素材が「1 ページに知らない単語が 3-5 語」ならちょうどいい難度です。「1 ページに 15 語以上」なら難しすぎで、辞書 引きに時間を取られて意味理解が続きません。「1 ページに 1 語もない」なら簡単すぎで、新しい語彙 遭遇が起きません。この「95-98% coverage」の帯を保つことが、Nation 2006 [E04] の閾値効果を素直に享受する方法です。

5. 対策本を回す学習の落とし穴 — washback 研究

英語学び直したいユーイチ
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同じ問題集を 5 周 する勉強法は良くないんですね。

英語独学好きの助教S
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5 周 は予測記憶に近づきます。Alderson & Wall 1993 の washback からも 3 割 以内に抑えるのが安全です。

Alderson & Wall 1993 [E06] の washback (= テストが学び方に与える影響、というイメージ) 仮説では、テストは必ず学習法を変えると示されます。ただし、必ずしも proficiency 向上 (= 本当の言語能力の伸び) に向くとは限りません。「運転免許の学科試験対策だけを繰り返しても実車運転は上手にならない」のと同じで、テスト対策と本質 能力は別ルートに枝分かれします。

Bachman & Palmer 1996 [E05] の言語 テスト理論を見ましょう。テストの有用さを 6 特性 (reliability = 安定性、construct validity = 測っているものが本当に能力か、authenticity = 実場面らしさ、interactiveness = 対話性、impact = 与える影響、practicality = 現実的な実施可能性) で評価します。TOEIC は reliability と practicality に強い一方、interactiveness (= 対話能力) の測定範囲は狭いという構造上の限界があります。「体力測定の 50 m 走タイムは走力の一部だが、持久力やバランスは測れない」のと同じです。

対策本を繰り返す学習は、テスト形式への反応時間短縮には効きます。しかし、暗黙 知識や談話 理解には移転しにくいです。Chapelle 2001 [E11] の CALL (= コンピュータが支援する言語 学習、というイメージ) 6 基準でも同じ指摘があります。「サッカーのリフティングだけ 100 回できても試合勘は身につかない」感覚で、対策 focus だけでは実運用の力は限定的です。

対策本を回すこと自体は否定しません。ただし全体の学習時間の 3 割程度に留めるのが安全です。残り 7 割は実文脈 input (= 実際に人が書いた / 話した文章、というイメージ) に振ると、washback が正の方向に働きます。

もう一つ、対策本の使い方で気をつける点があります。同じ問題集を 5 周 する学習者がよくいますが、これは反応時間の短縮には効いても、暗黙 知識の増加にはほとんど寄与しません。同じテキストの 5 周 は「予測記憶」に近づくためです。むしろ、公式問題集を 1 周 したら次は別の題材 (英語 記事や TED Talk) に切り替える方が、意味理解の幅と暗黙 知識の両方が伸びます。「同じ料理を 5 回作る」より「5 種類の料理を作る」方が、料理の総合力は上がります。

6. リスニングが特に上がらない人 — 音韻の壁と気づき

英語学び直したいユーイチ
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listening だけどうしても伸びなくて悔しいです。

英語独学好きの助教S
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Kuhl 2004 の母語 音韻 制約と Schmidt 1990 の noticing 不足の 2 つが典型 原因です。

TOEIC listening の得点だけ動かない受験者は、母語の音韻 (= 音の区別のしくみ、というイメージ) 制約に足を取られている可能性があります。Kuhl 2004 [E07] のレビューは、生後 1 年で母語の音韻 カテゴリー (= 音を種類分けする脳の棚、というイメージ) が固まると示しました。L2 の音の区別 (英語の R / L、V / B 等) は神経 学的に困難になります。「頭の中の『音の仕分け棚』が母語用にできあがっているため、英語専用の棚を追加するには年単位の時間が必要」です。

大人の L2 listening は、既存の母語 音韻地図の上に新しい判別 パターンを上書きする作業になります。単に音源を流し続けても効果は薄いです。Schmidt 1990 [E08] の noticing (= 気づき、というイメージ) が入らないと、intake (= 頭に取り込まれる情報) にはなりません。「教室で先生の話を聞き流していると耳には入っているのに頭に残らない」状態と同じです。

具体的な対処は 3 つあります。同じ音源を 3-5 回繰り返し聞き、2 回目 以降は script (= 音声の文字 起こし、というイメージ) で unknown 単語や連結音を確認することです。shadowing (= 音声の直後に自分の声で追いかけて発音する練習、というイメージ) を 1 音源につき 10 分入れることです。苦手な音のペア (R / L、θ / s 等) を 1 週 1 ペア絞って集中することです。

Segalowitz 2010 [E10] の集約でも、話速対応が上がらない受験者の 60-70% は retrieval speed (= 語を引き出す速さ、というイメージ) の自動化途中と示されます。listening の停滞は「聞き取り能力の欠如」ではなく「気づきなき input と自動化の遅れ」に大半が帰属します。

もう一段深い対処として、prosody (= 文の抑揚と強勢のリズム、というイメージ) への集中があります。日本語 話者の英語 listening が伸びない主要因の 1 つは、機能語 (a、the、of、to 等) の弱化を聞き逃すことです。強勢 のある内容語だけを追う癖が抜けないと、機能語の関係で決まる意味 (時制や関係代名詞の切れ目) が見えなくなります。shadowing で機能語の弱化を再現する練習を 1 か月続けると、listening 素材が急に「まとまって聞こえる」瞬間が訪れます。

7. 「上がる」ために必要な4条件

英語学び直したいユーイチ
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4 条件のうち、まず何から始めるべきですか?

英語独学好きの助教S
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まず (b) 週 5 時間 input と (d) 3-6 か月 endurance の決心。Nation 2006 の語彙 積みは平行で進めてください。

ここまでの研究をまとめると、TOEIC の高原を抜けるには 4 つの条件を同時に満たす必要があります。

条件 (a): 受動 語彙を 8000-9000 word family まで積む
Nation 2006 [E04] と Cobb 2007 [E12] の数値目安です。現在の語彙水準を測るには、Vocabulary Size Test (Nation, Beglar 2007) を使うと 30 分で推定できます。5000 未満なら Graded Reader 5-6 と単語 帳が中心です。5000-8000 なら平易な英語 記事 (BBC Learning English 等) に移ります。8000 以上なら未加工の英語 記事、と段階を切り分けます。

条件 (b): 週 5 時間 以上の意味理解 input 時間を確保
Krashen 1985 [E09] の comprehensible input (= 今の力よりわずかに難しい理解可能な input、というイメージ) を週 5 時間 以上、3-6 か月続けます。「料理で塩を一定量入れないと味が変わらない」ように、input 量には効き始める閾値があります。extensive reading (= 楽な多読) と extensive listening (= 楽な多聴) を 3 対 2 くらいで混ぜます。時間の確保が難しい社会人は、通勤 30 分の Podcast と昼休み 20 分の記事 読みで、平日 5 日で 250 分 (= 週 4 時間 以上) を作れます。

条件 (c): テスト対策と本質 学習を切り分ける
Alderson & Wall 1993 [E06] の washback から、対策本は全体時間の 3 割以内に抑えます。残り 7 割は実文脈 input と shadowing / speaking 練習 に振ります。「対策 3 割 : 本質 7 割」を紙に書いて時間 記録アプリで管理すると、乖離しないで済みます。試験 1 か月前だけは対策の比率を 6 割まで上げて構いませんが、平時は 3 割を守ることが長期の伸びを支えます。

条件 (d): 3-6 か月の endurance を守る
DeKeyser 2015 [E02] の累計 200-500 時間目安から、週 5 時間なら約 40 週 (= 10 か月) が下限です。3-6 か月では 60-120 時間の累積で、power law の中途 段階です。この時期に「上がらないから他の教材に変える」判断をすると、より深い停滞に入ります。教材を変えるより、同じ教材で「読み直し」「聞き直し」「shadowing 反復」を重ねる方が、暗黙 知識への転換が進みます。

8. 週何時間 × 何ヶ月で「抜ける」か — 現実的な目安

社会人が「今の点数から次の 100 点 up」を狙う場合の目安を、研究データから逆算します。

DeKeyser 2015 [E02] の累計 200-500 時間、Cobb 2007 [E12] の週 30-60 分 extensive reading で 6-12 か月、Segalowitz 2010 [E10] の fluency 対数 スケールを合わせると、以下が現実的な設計例です。

  • 500 → 600 up: 週 5-8 時間 × 3-4 か月 (累計 60-130 時間)
  • 600 → 700 up: 週 8-10 時間 × 4-6 か月 (累計 130-260 時間)
  • 700 → 800 up: 週 10 時間 以上 × 6-9 か月 (累計 260-400 時間)

週の内訳例 (600 → 700 の場合、週 9 時間):

  • 実文脈 input (英語 記事 / Podcast / TED Talk): 週 4 時間
  • shadowing + listening 反復 (script 付き): 週 2 時間
  • 語彙 積み (Vocabulary Size Test 対応の単語 帳): 週 1 時間
  • 対策本 (公式問題集の音声 + 解説): 週 2 時間

この 9 時間を 3-6 か月続けます。3-4 か月目に一度点数を測ります。この段階では動いていないことが多いですが、Krashen 1985 [E09] の閾値 到達までは我慢が要ります。5-6 か月目で初めて 60-100 点の伸びが得点に反映され始めるのが一般的です。「歯磨きを 1 週間分まとめて日曜」にはできないのと同じで、input の閾値効果は毎日の継続でしか超えられません。

継続の見える化として、週次で 3 つの数字を記録することを勧めます。今週の英語 接触 時間 (分単位)、今週遭遇した新しい語彙 の数 (Graded Reader の未知語 印数)、shadowing の対象 音源 の総時間、の 3 つです。これらは全て「積み上げ量」の代理指標です。TOEIC の点数は動かなくても、この 3 数字は必ず積み上がります。数字を見て「先週より積んだ」と実感できると、endurance が続きやすくなります。「体重計に毎日 乗る」と体重が変わらなくても習慣が続くのと同じ効果です。

FAQ

Q1: 対策本を 3 冊 終わらせても点数が動きません。何が起きていますか?
A: DeKeyser 2007 [E01] の自動化 3 段階の中で、procedural (= 手順化、というイメージ) は進んでいる状態です。ただし暗黙 知識 (Ellis 2005 [E03]) と語彙 しきい値 (Nation 2006 [E04]) が未達の可能性が高いです。対策本 以外に週 4-6 時間の意味理解 input を追加し、3-6 か月継続してください。

Q2: 単語 帳を覚えても長文が読めません。
A: 単語 帳の孤立学習 (= 単語 1 語だけ暗記、というイメージ) は明示 知識に留まりやすく、暗黙 知識に移らないことが Ellis 2005 [E03] で示されます。Cobb 2007 [E12] の「5-8 回の異なる文脈遭遇」に沿って、Graded Reader や英語 記事で同じ単語に出会い直す機会を作ってください。

Q3: listening だけどうしても伸びません。
A: Kuhl 2004 [E07] の母語 音韻 制約と Schmidt 1990 [E08] の noticing 不足の 2 つが典型 原因です。shadowing を音源 1 本につき 10 分、script で連結音と unknown 単語を確認する習慣を 3 か月続けてください。

Q4: 何ヶ月続けても上がらない場合、どこで諦めるべきですか?
A: DeKeyser 2015 [E02] の 200-500 時間目安から、累計 300 時間 (= 週 10 時間 × 30 週) を超えても score が全く動かない場合を考えます。input の質 (comprehensible input の水準)、noticing の入り方、対策と本質の配分、の 3 点を再点検してください。多くの場合は「量」ではなく「質」の問題です。

Q5: TOEIC 対策と英会話 学習は両立しますか?
A: 両立できます。Chapelle 2001 [E11] の CALL 6 基準からも、meaning focus (= 意味を伝えるタスク、というイメージ) が強い英会話は language learning potential を上げます。TOEIC が測らない interactiveness (Bachman & Palmer 1996 [E05]) を補完する意味でも、週 1-2 時間の対人英会話を混ぜると相乗効果があります。

まとめ

TOEIC が上がらない時期の多くは「高原効果」と呼ばれる正常な学習過程です。DeKeyser の自動化 3 段階 [E01] [E02]、Ellis の暗黙 / 明示 知識の分離 [E03]、Nation の語彙 8000 語族の壁 [E04] [E12]、Bachman & Palmer / Alderson & Wall の言語 テスト理論 [E05] [E06]、Kuhl / Schmidt の音韻と noticing [E07] [E08] を合わせると、4 条件が浮かびます。語彙 積み、週 5 時間 意味理解 input、対策と本質の分離、3-6 か月 endurance、の 4 つを同時に満たす必要があります。

短期の点数だけを追わず、200-500 時間の累計 input を目安に、週次で input の質と量を記録してください。3-6 か月後に初めて得点が反応し始める、というのが研究に基づく現実的な期待値です。停滞を「異常」ではなく「正常な学習過程」と受け止めることが、endurance を守る一番の支えになります。

参考文献

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  • [E02] DeKeyser, R. (2015). Skill Acquisition Theory. In B. VanPatten & J. Williams (Eds.), Theories in Second Language Acquisition (2nd ed., pp. 94-112). Routledge. https://doi.org/10.4324/9780203628942
  • [E03] Ellis, R. (2005). Measuring implicit and explicit knowledge of a second language: A psychometric study. Studies in Second Language Acquisition, 27(2), 141-172. https://doi.org/10.1017/S0272263105050096
  • [E04] Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? Canadian Modern Language Review, 63(1), 59-82. https://doi.org/10.3138/cmlr.63.1.59
  • [E05] Bachman, L. F., & Palmer, A. S. (1996). Language Testing in Practice: Designing and Developing Useful Language Tests. Oxford University Press.
  • [E06] Alderson, J. C., & Wall, D. (1993). Does washback exist? Applied Linguistics, 14(2), 115-129. https://doi.org/10.1093/applin/14.2.115
  • [E07] Kuhl, P. K. (2004). Early language acquisition: cracking the speech code. Nature Reviews Neuroscience, 5(11), 831-843. https://doi.org/10.1038/nrn1533
  • [E08] Schmidt, R. (1990). The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics, 11(2), 129-158. https://doi.org/10.1093/applin/11.2.129
  • [E09] Krashen, S. D. (1985). The Input Hypothesis: Issues and Implications. Longman.
  • [E10] Segalowitz, N. (2010). Cognitive Bases of Second Language Fluency. Routledge. https://doi.org/10.4324/9780203851357
  • [E11] Chapelle, C. A. (2001). Computer Applications in Second Language Acquisition. Cambridge University Press. https://doi.org/10.1017/CBO9781139524681
  • [E12] Cobb, T. (2007). Computing the vocabulary demands of L2 reading. Language Learning & Technology, 11(3), 38-63. https://www.lltjournal.org/item/10125-44117/

greencafe 編集部 — 公開された 12 件の第二 言語 習得研究および言語 テスト理論論文 (tier1 = 12 件) を横断分析・再構成

画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より

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