子供が英語で全然話さないのは大丈夫?|研究でわかった「声を出さない期間」との付き合い方

英語教室に半年通っても、うちの子ずっと黙ったままなんです。

そのお気持ち、よく分かります。実は声を出さない時期があること自体は、多くの研究で報告されているんですよ。

同じように悩んでる親も、実は多いんでしょうか?

ええ、非常に多いです。第二言語を学ぶ子どもの発達を追う研究分野そのものが、長年この時期を扱ってきているんです。

研究で説明がつくとしても、うちの子に当てはまるか不安で。

よく分かります。多くの研究では、この時期をひとりひとりの発達の道すじとして整理しようとしているんですよ。

具体的には、どう考えればいいんでしょうか?

この記事では、いくつかの研究を順番に見ながら、安心していい範囲と相談の目安を一緒に整理していきますね。
結論: 英語教室に通わせているのに子供が何ヶ月も声を出さない。この状態は、多くの場合、失敗でも遅れでもない。新しい言葉を理解できる形でたくさん受け取り、頭の中にためている途中の、自然な発達の一段階だと研究では考えられている。声が出るまでの期間には個人差が大きく、断定的な数字は示せない。ただし「様子を見ていい範囲」と「専門家に相談したほうがいい目安」は分けて示せる。
この記事でわかること
- 声を出さないことは、理解できる情報をためている「沈黙期」という発達段階の可能性が高いこと
- 声に出していない間も、頭の中では言葉の練習(私的発話)が進んでいる場合があること
- 保育現場でまとめられた発達の4段階のうち、今どのあたりにいるかの見当がつくこと
- 安心していい範囲と、専門家や園・教室に相談したほうがいい目安の分け方
「何ヶ月も声を出さない」は、失敗でも遅れでもない

内気な性格のせいだと思ってたんですが、違うんですか?

実は違うんです。声を出さない期間は「沈黙期」と呼ばれ、頭の中に言葉をためている時期だと研究では考えられています。
英語教室やインターナショナルプリスクールに通わせて数ヶ月が経つ。それなのに子供が英語の場面でほとんど声を出さない。そんな様子を見て、「ついていけていないのでは」と不安になる保護者は少なくない。
この「声を出さない期間」は、第二言語習得の研究では沈黙期と呼ばれる。声を出さずに周りを観察しながら、情報をためる期間という意味だ。多くの子供に見られる、自然な発達段階の一つだと考えられている。
大切なのは、声が出ていないことと、頭の中で言葉の処理が進んでいないことは別だという点だ。研究では、外から見えない部分でも学習が進んでいる可能性が指摘されている。
ただし、この記事では「何ヶ月経てば必ず話す」という断定的な数字は示さない。沈黙期の長さや現れ方には、子供ごとに大きな差があるためだ。理由は後の章で詳しく扱う。
まずは「今は情報をためている途中かもしれない」という見方に切り替えることから始めたい。
インターネットで検索すると、「話さないのは性格が内気だから」「その子には向いていないから」といった、単一の理由に絞った説明もよく見かける。しかし、性格やシャイさだけで片づけてしまうと、多くの子供に共通して起きる発達段階という視点が抜け落ちてしまう。
ここまでのまとめ: 子供が声を出さないのは、多くの場合、理解できる情報をためている沈黙期という自然な発達段階であり、習得が止まっている証拠ではない。
コップに水がたまるまで待つ「理解可能なインプット」という考え方

話す練習をさせなくて、本当に大丈夫なんですか?

Krashenという研究者の理論では、コップに水が溜まってあふれるように、理解が十分たまってから話が出ると考えられています。
言語学者のKrashenは、外国語の力の伸び方について一つの説明を示した。今のレベルより少しだけ高い、意味が分かる言葉をたくさん受け取ることで、力は自然に伸びていくという考え方だ。これは理解可能なインプット(=理解できる言葉の入力を十分に受け取ることで言語が身につく、という考え方)と呼ばれている。
この考え方は、コップに水が少しずつたまるイメージに近い。水があふれ出て初めて、話し始めるという順番だ。水がたまりきる前に、無理に注ぎ出させようとしても意味がない。
Krashenの理論では、発話の力は意図的な練習で直接鍛えるものではないとされる。十分な理解できる情報がたまった結果として、自然に現れてくるものだという考え方だ。
習得の初期段階で発話を無理に引き出そうとするとどうなるか。かえって不安な気持ちを強め、習得の妨げになる可能性もあるという。
この考え方は、Krashenと共同研究者のTerrellによる教室向けの指導法にも反映されている。学習初期の沈黙期には発話を強制しない。理解できる情報を豊富に与えることが推奨されている。
プールで例えるなら分かりやすい。いきなり泳がせるのではなく、まずプールサイドで水に十分慣れさせてから泳ぎ始めさせる、あの順番に近い。
だからといって、静かにしている間に英語に触れる量を減らす必要はない。むしろ、絵本の読み聞かせや簡単な語りかけなど、理解できる情報を増やす関わりは続けたほうがよい。話す練習を強いることと、理解できる機会を増やすことは、まったく別の話だからだ。
ここまでのまとめ: 声を出す力は、理解できる情報が十分にたまった結果として自然に現れてくるものであり、無理に発話を急がせる根拠にはならない。
声には出さなくても、頭の中では練習が進んでいる「私的発話」

声を出してないなら、何もしてないのと同じでは?

いいえ、Saville-Troikeの観察研究では、小声でつぶやく「私的発話」という頭の中の練習が進んでいたと確認されています。
「何もしていないように見える」のは、本当に何もしていないからではないかもしれない。
言語学者のSaville-Troikeは、中国語・日本語・韓国語を母語とする3〜8歳の子供を観察した。対人的な発話は少なくても、独り言のように声に出したり、小声でつぶやいたりする様子が広く見られたという。
これは私的発話と呼ばれる。口には出さないけれど、頭の中や小声で言葉のリハーサルをしている状態のことだ。
観察された私的発話には、いくつかのやり方が含まれていた。他の人の言葉を繰り返す、覚えたことを思い出して練習する、新しい言い回しを自分で作ってみる、といった具合だ。人前で話す前の、本番のリハーサルのような練習に近い。
年齢によって私的発話の使い方には違いも見られている。3〜5歳の年少児は、聞いた言葉をそのまま繰り返す使い方が多かった。一方、6〜8歳の年長児は、自分なりに言い回しを組み替えて練習する使い方が目立ったという。
2024年に発表された、40件の先行研究をまとめたレビュー研究がある。沈黙期の子供は身振りや母語も交えながら、複数の方法で教室に参加しようとしていることが、改めて確認されている。
声という一番目立つ部分だけを見ていると、こうした内側の動きは見落とされやすい。
ここまでのまとめ: 声に出さない間も、頭の中や小声では言葉の練習が進んでいる可能性が、複数の観察研究で示されている。
保育現場がまとめた、発達の4段階の道すじ

今どの段階にいるのか、見分け方ってあるんですか?

Taborsという研究者が整理した4段階モデルでは、母語→観察→決まり文句→自分の文、の順に進むとされています。
保育・幼児教育の現場を長く観察してきたTaborsという研究者がいる。家庭の言葉しか話さない子供が、新しい言語に触れ始めてからの様子を4つの段階に整理した。
1つ目は、家庭の言葉をそのまま使い続ける時期だ。2つ目は、ほとんど声を出さず周りを観察する時期で、これが沈黙期にあたる。3つ目は、決まり文句や単語単位の短い発話が出てくる時期。4つ目は、自分で文を組み立てて話す時期だ。
2つ目の観察の時期は、ある場面に似ている。転校初日にまず周りをじっと観察してから、少しずつ話し出す「様子見期間」に近い。この段階では、子供は周囲をよく見て、身振りに頼ってコミュニケーションを取ろうとする様子が記録されている。
このモデルは、保育・英語指導の現場で広く使われている実務的な枠組みだ。声が出るまでの期間は子供によって大きく異なり、一律の長さを前提にすべきではない。この個人差については、後の章で詳しく扱う。
今、声が出ていないとしても、それは4段階のうちのどこかを順番に進んでいる途中だと捉えることができる。
3つ目の段階に進むと、変化が少しずつ見え始める。「Look!」「My turn」のような、決まった場面で使う短い言葉が出てくるようになる。これは文をゼロから組み立てているのではなく、よく聞くフレーズをそのまま覚えて使っている段階だ。ここから徐々に、自分で言葉を組み替えて話す4つ目の段階へと進んでいく。
ここまでのまとめ: 幼児の言語習得は母語使用→沈黙期→短い決まり文句→自分で文を組み立てる、という順に進むのが一般的な道すじである。
言葉を覚える順番は、母語も外国語も同じ
沈黙期は、外国語特有の特殊な現象というわけでもない。
言語学者のErvin-Trippは、英語を母語とする4〜9歳の子供がフランス語を身につける過程を調べた。文法の理解が育つ順序は、母語を覚えるときの順序と多くの点で似ていることを示した。
赤ちゃんが話す前に、まず言葉を聞き分けられるようになる。それと同じ順番が、外国語を覚える子供にも見られるということだ。理解する力が先に育ち、話す力は少し遅れてついてくる。
この研究では、発話そのものより理解の力を中心に測定していた。恥ずかしさなどが実際の理解力を隠してしまうことを避ける工夫だったという。また、年齢が高い子供のほうが学習の速度が速い傾向も見られている。
スペイン語を母語とする子供たちの英語習得を観察した研究もある。Wong Fillmoreという研究者によるものだ。子供たちはまず周囲の会話の輪に加わり、様子を見ながら手がかりを拾うという方法を取っていたことが記録されている。
この研究では、子供たちが使っていた工夫を2種類に整理している。新しい言葉の意味や仕組みを自分なりに推測する工夫と、周囲の会話にまず加わって手がかりを拾う工夫だ。ただし、その進み方や使い方には子供ごとに大きな違いも見られたという。
転入生がまず輪に入って、周りのやり方をまねしながら少しずつ会話に加わっていく。あの適応の仕方に近い。
日本語を母語とする幼児1名を観察したケーススタディもある。1人の子供をじっくり長期間観察して記録する研究の形のことだ。この報告でも、英語習得の初期に非発話的な期間が見られたとされている。
1つの事例だけの記録であり、一般化には限界がある。それでも、こうした報告が積み重ねられてきたことが、沈黙期という現象の輪郭をはっきりさせてきた。
ここまでのまとめ: 理解する力が先に育ち話す力が後からついてくる順番は、母語でも外国語でも共通して見られる。
「様子を見ていい範囲」と「相談したほうがいい目安」

いつまで様子を見ていいのか、正直不安なんです。

Robertsのレビュー研究では個人差が大きいと指摘されていて、断定はできませんが、相談すべき目安は分けて示せますよ。
ここまで、声を出さないことの多くは正常な発達段階だと説明してきた。ただし、この考え方を「いつまでも様子見でよい」という単純な話にしてしまうのは誠実ではない。
2014年に発表されたRobertsのレビュー研究がある。沈黙期を扱った先行研究12件を検討したもので、研究ごとに「沈黙」の定義がまちまちであることを指摘している。
そのうえで、一つの結論を導いている。すべての子供が同じように一律の沈黙期を経るという強い根拠は限定的で、沈黙期の有無・長さ・現れ方には子供ごとに大きな差があることが示された。
クラス全員が同じ速さで泳ぎを覚えるわけではない。それと同じで、黙る期間の長さや有無は子供によってかなり違う。だからこそ、「何ヶ月経てば必ず話す」と約束することはできない。
その代わりに、線引きの目安を示したい。安心していい範囲は次の通りだ。家庭の言葉では年齢相応にやり取りができていて、英語の授業以外の場面でも笑ったり反応したりする様子が見られる場合である。
一方で、相談したほうがいい目安もある。家庭の言葉でもやり取りが極端に少ない、他の場面でも表情や身振りによる反応が乏しい。こうした様子が重なる場合は、発達の専門家や園・教室の先生に相談するとよい。
たとえば、家族との会話にもほとんど反応しない、名前を呼んでも振り向かない、といった様子が英語以外の場面でも続く場合は、単なる沈黙期とは区別して考えたほうがよい。園や教室の先生は、集団の中での様子を日常的に見ている立場でもある。気になる点があれば、早めに聞いてみるだけでも安心材料になる。
ここまでのまとめ: 沈黙期の長さには個人差が大きく断定はできないが、母語でのやり取りや他の場面での反応が乏しい場合は専門家への相談を検討したい。
似ているようで違う話―開始年齢・メリット・語彙量・摩耗との違い
「子供 英語」で検索すると、開始年齢や早期教育のメリットを扱った記事も多く出てくる。ただし、これらは今回のテーマとは扱っている軸が違う。
たとえば幼児の英語は何歳から始めるべきかという記事がある。ここで扱ったのは、英語をいつ始めるかという開始年齢の話だ。始めた直後に起きる沈黙期そのものとは、別の論点になる。
子供の英語の早期教育に本当はどんなメリットがあるのかという記事もある。ここで扱ったのは、長期的に見た脳の働きや学業への影響だ。始めてすぐの数ヶ月間に何が起きているかという本記事の対象とは、時間の幅が違う。
バイリンガル育児の語彙量を検証した記事もある。そちらは語彙の量を測った研究の話であり、発話が出ない期間という時間的な現象を扱う本記事とは軸が異なる。
学校で習った英語はどこへ消えたのかという記事もある。ここで扱ったのは、一度身につけた英語を使わなくなった後に何が起きるかという話だ。これから習得が始まる沈黙期とは、時期が正反対の現象になる。
ここまでのまとめ: 開始年齢・長期メリット・語彙量・摩耗はいずれも別の軸の話である。沈黙期は「始めた直後に起きる、声が出ない期間」だけを扱うテーマだ。
よくある質問
Q. 子供が英語で全然話さないのは普通ですか?
A. 多くの場合ははい。理解できる情報をためている沈黙期という発達段階の可能性が高く、それ自体は珍しいことではない。
Q. 沈黙期はいつまで続きますか?
A. 子供によって差が大きく、断定的な期間は示せない。目安の数字を探すよりも、今どの段階にいるかという見方で捉えるほうが実情に合っている。
Q. 声を出させる練習をさせたほうがいいですか?
A. 理解できる情報が十分たまる前に無理に発話を引き出そうとすると、かえって不安な気持ちを強める可能性がある。理解できるやり取りを増やすことのほうが優先度は高い。
Q. 声を出していない間、子供の頭の中では何が起きていますか?
A. 独り言のように声に出す、または小声でつぶやく私的発話という練習が進んでいる可能性が観察されている。
Q. どんな様子があれば専門家に相談したほうがいいですか?
A. 家庭の言葉でもやり取りが極端に少ない、他の場面でも表情や身振りの反応が乏しい。こうした様子が重なる場合は、発達の専門家や園・教室の先生に相談を検討したい。
Q. 他の子と比べて遅れていないか心配です。
A. 沈黙期の長さや現れ方には子供ごとに大きな差があることが研究で示されている。周りの子と比べるより、家庭の言葉でのやり取りや日常の反応がどうかを見るほうが、目安としては役に立つ。
まとめ
沈黙期の間、保護者にできることは何か。無理に発話を促すことではなく、理解できるやり取りを増やしながら見守ることだ。
英語の絵本を一緒に眺める、簡単な言葉で話しかける。こうした、理解できる情報を増やす関わりは続けながら、声が出ることを急がせない姿勢が大切になる。
声が出ない期間の長さは、子供によって大きく違う。そのため、断定的な期間を約束することはできない。ただし、家庭の言葉でのやり取りや他の場面での反応まで乏しい場合は、専門家や園・教室に相談する目安として覚えておきたい。
「何ヶ月も声を出さない」という今の状態。これは多くの場合、失敗でも遅れでもなく、理解できる情報をためている途中の自然な一段階である。
声が出るタイミングを急かすより、今どの段階にいるのかを落ち着いて見守るほうが、結果として近道になることが多い。この見方に立てるだけで、不安な気持ちのまま待ち続ける必要はなくなるはずだ。
参考文献
- Krashen, S. D. (1982) Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon Press. https://www.sdkrashen.com/content/books/principles_and_practice.pdf
- Saville-Troike, M. (1988) “Private speech: Evidence for second language learning strategies during the ‘silent’ period.” Journal of Child Language, 15(3), 567-590. https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-child-language/article/abs/private-speech-evidence-for-second-language-learning-strategies-during-the-silent-period/CACE521B6B89199F13D2BEF7ED6FCD9A
- Tabors, P. O. (1997; 2nd ed. 2008) One Child, Two Languages: A Guide for Early Childhood Educators of Children Learning English as a Second Language. Paul H. Brookes Publishing. https://brookespublishing.com/products/one-child-two-languages/
- Roberts, T. A. (2014) “Not so silent after all: Examination and analysis of the silent stage in childhood second language acquisition.” Early Childhood Research Quarterly, 29(1), 22-40. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0885200613000720
- Ervin-Tripp, S. (1974) “Is second language learning like the first?” TESOL Quarterly, 8(2), 111-127. https://www.jstor.org/stable/3585535
- Wong Fillmore, L. (1976) The Second Time Around: Cognitive and Social Strategies in Second Language Acquisition. Doctoral dissertation, Stanford University. https://searchworks.stanford.edu/
- Itoh, H., & Hatch, E. (1978) in E. Hatch (Ed.), Second Language Acquisition: A Book of Readings, Newbury House, pp.76-88. https://openlibrary.org/works/second-language-acquisition-a-book-of-readings
- Kan, P. F., Jones, M., Meyers-Denman, C., & Sparks, N. (2024) “Emergent bilingual children during the silent period: A scoping review of their communication strategies and classroom environments.” Journal of Child Language, 558-591. https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-child-language/article/emergent-bilingual-children-during-the-silent-period-a-scoping-review-of-their-communication-strategies-and-classroom-environments/BC017E73C1C33333DB8A8683DDF5A9DB
- Krashen, S. D., & Terrell, T. D. (1983) The Natural Approach: Language Acquisition in the Classroom. Pergamon Press / Alemany Press. https://www.sdkrashen.com/content/books/the_natural_approach.pdf
最終更新日: 2026-09-09
著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された9件の研究エビデンス(tier 1=7 / tier 2=2)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より
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