下の子だけ英語が身につかないのはなぜ?|研究でわかった「きょうだいと英語量」の関係

上の子は英語話せるのに、下の子が全然話さなくて…僕の関わり方が悪いんですかね?

気持ちはわかります。実はこれ、多くのご家庭でよく見られる現象で、言語習得の研究にも関わる切り口があるんですよ。

同じきょうだいでも、そんなに差が出るものなんですか?

はい。バイリンガル家庭を対象にした研究は昔からたくさんあり、きょうだいの有無で言語環境が変わることも知られています。

研究があるのはわかりましたけど、正直、僕に対策できるのか不安です…

大丈夫ですよ。研究の多くは、家庭内の環境をどう設計するかという問題として整理されているので、工夫の余地はしっかりあります。

じゃあ、具体的にはどんな研究を見ていけばいいんですか?

この記事では、きょうだいと英語の関係を調べた研究をいくつか順番に見ながら、実践できる工夫まで整理していきます。
結論: 下の子が英語を話さないのは、能力ややる気の差ではないかもしれない。
海外の研究では、きょうだいができることで家庭内の英語との接触量そのものが変わってしまう「出生順効果」が報告されている。
量だけでなく、話しかけてくれる人の数も英語力に関わっている。きょうだいが増えると、一対一で話しかけてもらう時間が実質的に減りやすい。
工夫次第で状況は変えられるため、まずは家庭内の英語との接触機会を、きょうだいがいる前提で設計し直すことが近道になる。
この記事でわかること
- きょうだいがいる家庭で「下の子だけ英語が身につかない」と感じやすい理由
- 海外の研究が示す「出生順効果」の中身と、日本の家庭に当てはめるときの注意点
- 英語に触れる「量」だけでなく「話す人の数」も関わっているという研究の視点
- きょうだいがいる家庭でも実践できる、現実的な工夫
上の子は話せるのに、下の子は話さないというよくある悩み
きょうだいが二人以上いる家庭では、こんな声がよく聞かれる。
「上の子は英語の絵本を楽しそうに読んでいたのに、下の子は全然英語を話さない」。
上の子のときは、毎晩のように英語の絵本を読み聞かせて、簡単な英語のかけ声にも反応していた。
同じように下の子にも読み聞かせをして、同じ教材を使っているつもりでも、下の子だけ英語が身につかないように見えることがある。
このとき、多くの親は「下の子は英語に向いていないのかもしれない」と考えてしまう。
あるいは「上の子ほど手をかけられていないせいだ」と、自分を責めてしまうこともある。
きょうだいが増えると、家事も育児も単純に忙しさが増す。
そのため、下の子への関わりが薄くなったように感じるのは自然なことだ。
しかし研究をたどると、少し違う景色が見えてくる。
下の子が話さない理由は、能力ややる気の問題ではないかもしれない。
家庭内の英語との接触量そのものが、構造的に減っている可能性があるのだ。
きょうだいができることは、家庭という小さな社会に新しい話し相手が増えることを意味する。
そしてこの変化は、家の中でどの言語がよく使われるかというバランスにも影響する。
これは、下の子の頑張りが足りないという話ではなく、家庭の仕組み自体が変わったという話だ。
たとえば、上の子が一人だけだったころは、お風呂の時間も車での送り迎えの時間も、親と子が一対一で英語のフレーズをやり取りする時間になっていた。
きょうだいが増えると、同じお風呂の時間でも、きょうだいどうしのやり取りが増え、親と一対一で英語を使う時間は自然に短くなる。
このような日常の変化の積み重ねが、下の子の英語との接触量を少しずつ目減りさせている可能性がある。
なお、子供の英語教育そのものが持つ効果は、子供の英語の早期教育に本当はどんなメリットがあるのかで研究をもとに整理している。
本記事では、その効果が「きょうだいの有無」でどう変わりうるかに焦点を当てる。
ここまでのまとめ: 下の子が英語を話さないのは能力の差ではなく、家庭内の英語との接触量が変わっている可能性がある。
きょうだいがいると家庭の言語バランスが変わる

上の子がいると、家の中の言葉のバランスまで変わるんですか?

はい。Bridges と Hoff の研究では、上の子がいる家庭ほど家庭内の英語量が多いと報告されています。
この「きょうだいの存在が家庭の言語バランスを変える」という仕組みを、実際のデータで示した研究がある。
Bridges と Hoff による研究である(Bridges & Hoff, 2014)。
この研究は、アメリカで英語とスペイン語の両方を家庭で聞いて育つ幼児を対象にしている。
幼児期の子供60名、さらに別の27名という、2つの調査を組み合わせた研究だ。
上の子がいる幼児といない幼児を比べたところ、興味深い結果が出た。
上の子がいる幼児のほうが、家庭の中で英語を聞く量が多く、英語の発達も進んでいた。
英語は、この家庭にとって多数派の言語にあたる。
一方、2つ目の調査では、学齢期の上の子がいる幼児に限って、少数派の言語であるスペイン語の発達がゆっくりだった。
さらに、上の子が学齢期になっている家庭では、ある傾向まで見られた。
母親自身も幼児に英語を話す割合が増える傾向だ。
つまりこの効果は、上の子がいれば必ず起きるというより、上の子の年齢によって強さが変わる、というのが正確な言い方になる。
上の子が学校で英語を多く使うようになると、家庭全体の会話も英語寄りに引っ張られていく、というイメージである。
この現象は「出生順効果」と呼ばれる。
出生順効果とは、生まれた順番によって、家の中で言語に触れるチャンスの多さそのものが変わってしまうこと、というイメージだ。
きょうだいという新しい話し相手が増えることが、家庭内の言語配分を変えてしまう可能性がある。
ここまでのまとめ: 上の子がいる家庭ほど家庭内で多数派の言語が増える傾向がある。
学齢期の上の子がいる場合は、少数派の言語の発達がゆっくりになる「出生順効果」も報告されている。
海外の研究をそのまま当てはめてよいのか

でも、それって外国の研究ですよね?日本の家と話が逆じゃないですか?

鋭いですね。たしかに向きは逆ですが、『話し相手が増えると言葉のバランスが変わる』という仕組みは参考になりますよ。
ここには正直に指摘しておくべき限界がある。
Bridges と Hoff の研究は、ある設計で行われている。
「英語が多数派の言語、スペイン語が少数派の言語」という設計だ。
一方、日本で英語を家庭の少数派の言語として育てたい家庭は、この向きがちょうど逆になる。
日本の家庭にとっては、日本語が多数派、英語が少数派の言語にあたる。
つまり、この研究の数字をそのまま日本の家庭に当てはめることはできない。
数字を輸入するのではなく、仕組みを借りるという発想が必要になる。
参考にできるのは、数字そのものではなく仕組みの部分だからだ。
その仕組みとは、「きょうだいという新しい話し相手が増えると、家庭内でどの言語がよく使われるかが変わる」というものである。
バイリンガル研究の基礎的な著作の一つが、この仕組みを説明している。
Grosjean による著作だ(Grosjean, 2010)。
Complementary Principle(= 言葉は相手や場面によって使い分けられる、という考え方)という考え方である。
たとえば、園や学校では日本語、祖父母とは方言、といった具合に、人はもともと相手ごとに言葉を使い分けている。
新しい話し相手が増えれば、その相手とどの言語で話すかによって、家庭内の言語の使い分けそのものが変わってしまう。
これがComplementary Principleの考え方から見えてくることだ。
なお、バイリンガル育児にまつわる不安や誤解は、バイリンガル育児のデメリットは本当?子供のためになるか研究で見きわめるでも研究をもとに整理している。
ここまでのまとめ: 海外の研究は言語の向きが逆であり数字はそのまま使えないが、「話し相手が増えると言語配分が変わる」という仕組みは参考にできる。
「量」だけでなく「話す人の数」も関わっている

量だけじゃなくて、話す人の数まで関係あるんですか?

そうなんです。Place と Hoff の研究では、話しかけてくれる人の人数も英語力に関わると分かっています。
量だけが問題ではない、という点を示している研究がある。
Place と Hoff の研究である(Place & Hoff, 2011)。
この研究では、英語に触れる時間の長さが調べられた。
それだけでなく、その言語を話してくれる人が何人いるかも調べられている。
その結果、話者の人数も子供の英語力に別々に関わっていることが示された。
さらに、自然な英語の話し方をする人からどれだけ聞いているかという割合も調べられた。
この割合も、独立した要因として関わっていた。
これを家庭の日常に置き換えて考えてみる。
子供が一人のときは、朝の身支度も夕食の会話も、親と子が一対一で向き合う時間になりやすい。
きょうだいが増えると、この一対一の時間は物理的に減りやすい。
夕食の会話も、下の子だけに話しかける時間より、きょうだい全員に向けた会話が増える。
その結果、英語を話しかけてくれる相手との一対一のやり取りが、上の子のときより実質的に少なくなっている可能性がある。
量だけでなく、誰が・何人で話しかけているかという中身も、見落とせない視点だ。
ここまでのまとめ: 話しかけてくれる人の数も英語力に関わる。
きょうだいが増えると、一対一で話しかけてもらう時間が実質的に減りやすい。
量が減れば、身につく英語も減りやすい
では、量が減ること自体は、本当に習得に影響するのだろうか。
この疑問に強いデータを示している研究がある。
Pearson たちの研究である(Pearson et al., 1997)。
バイリンガルの乳幼児25人を対象にした研究だ。
各言語に触れる割合と、その言語で知っている単語の割合を比べている。
両者の相関はr=.82, p<.001と非常に強かった。
r=.82というのは、その言語をどれだけ聞いたかと、どれだけ言葉を知っているかが、ほぼ連動して動くと言えるくらい強い関係を表す数字だ。
p<.001というのは、この関係がたまたま起きた偶然ではないと言えるくらい確かだ、という意味の数字である。
もちろん、相関が強いからといって、量さえ増やせば必ず話せるようになるとは限らない。
それでも、量と習得量のつながりの強さを示すデータとしては十分に説得力がある。
特に、少数派の言語に触れる時間が少ない子どもほど、この対応関係が崩れやすいことも報告されている。
別のバイリンガル幼児を対象にした研究でも、似た結果が出ている(Hoff et al., 2012)。
各言語の語彙や文法の到達度は、その言語への相対的な曝露量と対応していたと報告されている。
曝露量とは、どれだけその言語に触れたかの割合のことだ。
これらを踏まえると、一つの見立てが自然に浮かび上がる。
きょうだいの誕生で英語に触れる量が構造的に減れば、身につく英語の量にも影響が出やすい、という見立てだ。
ここまでのまとめ: 英語に触れる量とおぼえる単語の量は強く連動しており、量が構造的に減れば習得にも影響が出やすい。
出生順そのものに注目した研究

下の子は生まれつき言葉が苦手、ってことなんでしょうか…

いいえ、違います。Shin の研究でも、問題は本人の能力ではなく、置かれている環境の違いだと指摘されています。
出生順そのものに注目した研究もある。
Shin による研究だ(Shin, 2002)。
韓国系アメリカ人のバイリンガル家庭を対象にした研究である。
出生順と、継承語の習熟度の関係を調べている。
継承語とは、家庭の中で親から子へ受け継がれる、社会では少数派にあたる言語のことだ。
この研究では、一つの傾向が報告されている。
後に生まれた子供ほど、家庭内で継承語に触れる機会が相対的に少なくなりやすい傾向だ。
きょうだいどうしのやり取りが、家庭内で使われる言語のバランスに影響することも指摘されている。
ここで大切なのは、「下の子は生まれつき言葉が苦手だ」という結論ではないということだ。
下の子が置かれている家庭内の環境は、上の子が同じ年齢だったときの環境と、実はすでに違っている。
上の子には静かな一対一の時間があったが、下の子には賑やかなきょうだいのやり取りがある。
つまり問題は能力ではなく、環境の違いだと捉え直すことができる。
ここまでのまとめ: 出生順によって継承語に触れる機会が変わるとの報告があり、これは能力の差ではなく環境の違いとして捉え直せる。
きょうだいがいてもできる工夫

きょうだいがいても、今からできる工夫ってあるんですか?

もちろんです。De Houwer の調査では、両親がそろって英語を使う家庭ほどうまくいきやすいと分かっています。
では、きょうだいがいる家庭では、英語との付き合い方をどう工夫すればよいのだろうか。
一つのヒントを示す大規模な調査がある。
De Houwer による調査である(De Houwer, 2007)。
6歳から10歳の子供がいる家庭、1,899件を対象にした調査だ。
両親がそろって少数派の言語を使う家庭ほど、子供が実際にその言語を話すようになる割合が高かった。
ここでの少数派の言語とは、日本の家庭にとっての英語にあたる。
一方で、意外な結果も報告されている。
親一人につき一つの言語だけを使う方式を使っていても、それだけで成功が保証されるわけではなかった。
この方式はOne Parent One Language、略してOPOLと呼ばれる。
親一人が一つの言語だけを担当する子育てルールのこと、というイメージだ。
つまり、決まった型を守ること以上に大切なことがある。
家庭全体でどれだけ英語に触れる機会を作れているか、という総量のほうが大切だということになる。
バイリンガル子育ての実務書でも、似た助言がある(Barron-Hauwaert, 2004)。
きょうだいが増えたタイミングで、家庭内の言語戦略を見直すことが勧められている。
具体的には、いくつかの工夫が考えられる。
上の子と英語で遊ぶ時間をあえて作り、下の子も自然に巻き込まれるようにする工夫だ。
きょうだい一緒の英語絵本タイムを、週に何度か決めて設計するのもよい。
上の子に「先生役」を頼み、下の子に英語の絵本を読んで聞かせてもらうのも一つの方法だ。
上の子自身の英語のおさらいにもなり、下の子にとっては新しい話し相手が増えることにもなる。
車での送り迎えの時間に、きょうだい一緒に英語の歌を流すという工夫も手軽だ。
一対一の時間が減った分を、きょうだいを巻き込んだ「複数人での英語時間」に置き換えるという発想である。
完璧な仕組みを一度に作る必要はない。
まずは1日5分でも、きょうだいを含めた英語の時間を意図的に作ることから始めれば十分だ。
家庭内での英語の使い方をどう組み立てるかは、バイリンガルに子供を育てる家庭運用ガイド|研究が示す入力量と3つの方式の選び方でさらに詳しく扱っている。
ここまでのまとめ: 両親がそろって英語を使う家庭ほど成功率が高く、きょうだいが増えたタイミングで家庭の言語戦略を見直す工夫が現実的な対策になる。
よくある質問
Q. 下の子が英語を話さないのは、下の子の能力が低いということですか?
いいえ。研究では能力の差というより、きょうだいができたことで家庭内の英語量そのものが変わっている可能性が指摘されている。
Q. 海外の研究は、日本の家庭にそのまま当てはまりますか?
完全には当てはまらない。紹介した研究の多くは英語が多数派の言語という設計であり、日本とは向きが逆であることに注意が必要だ。
Q. きょうだいが増えたら、英語教育はあきらめたほうがよいですか?
そうではない。両親がそろって英語を使う家庭ほど成功率が高いという報告があり、工夫次第で状況は変えられる。
Q. 上の子と下の子を、全く同じように育てれば差はなくなりますか?
家庭内の環境自体がすでに変わっている。上の子と同じ関わり方だけでは、下の子の英語量が自然には追いつきにくい。
Q. 具体的に何から始めればよいですか?
まずは上の子と英語で遊ぶ時間を作るとよい。下の子も自然に参加できる場面を、意図的に増やすことが現実的な一歩になる。
まとめ
上の子は英語を話すのに、下の子はなかなか話さない――。
この差は、下の子の能力ややる気の問題ではないかもしれない。
きょうだいができたことで、家庭内の英語との接触量そのものが変わっているという、環境の問題である可能性が高い。
海外の研究をそのまま当てはめることはできない。
それでも、「話し相手が増えると家庭内の言語バランスが変わる」という仕組みは参考になる。
「量だけでなく話す人の数も関わる」という視点も、日本の家庭に参考になる。
大切なのは、下の子を上の子と比べて落ち込むことではない。
家庭内の英語との接触機会を、きょうだいがいる前提であらためて設計し直すことだ。
参考文献
- Bridges, K., & Hoff, E. (2014). Older sibling influences on the language environment and language development of toddlers in bilingual homes. Applied Psycholinguistics, 35(2), 225-241. https://doi.org/10.1017/S0142716412000379
- Shin, S. J. (2002). Birth Order and the Language Experience of Bilingual Children. TESOL Quarterly, 36(1). https://doi.org/10.2307/3588366
- Pearson, B. Z., Fernández, S., Lewedeg, V., & Oller, D. K. (1997). The relation of input factors to lexical learning by bilingual infants. Applied Psycholinguistics, 18(1), 41-58. https://doi.org/10.1017/S0142716400009863
- Place, S., & Hoff, E. (2011). Properties of Dual Language Exposure That Influence 2-Year-Olds’ Bilingual Proficiency. Child Development, 82(6), 1834-1849. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2011.01660.x
- Hoff, E., Core, C., Place, S., Rumiche, R., Señor, M., & Parra, M. (2012). Dual language exposure and early bilingual development. Journal of Child Language, 39(1), 1-27. https://doi.org/10.1017/S0305000910000759
- De Houwer, A. (2007). Parental language input patterns and children’s bilingual use. Applied Psycholinguistics, 28(3), 411-424. https://doi.org/10.1017/S0142716407070221
- Grosjean, F. (2010). Bilingual: Life and Reality. Harvard University Press. https://www.hup.harvard.edu/
- Barron-Hauwaert, S. (2004). Language Strategies for Bilingual Families: The One-Parent-One-Language Approach. Multilingual Matters. https://www.multilingual-matters.com/
最終更新日: 2026-09-21
著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された 8 件の研究エビデンス(tier 1=6 件 / tier 2=2 件)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より
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