60代から英語を始めると脳はどう変わるか|認知の予備力と脳画像の研究で見える効果

庭で花を育てている高齢の女性のイラストと、笑顔で並んで立つおじいさんとおばあさんのイラストを左右に並べた、シニア世代のアクティブな日常を示す合成画像 英語学習

60代から英語を始めると脳はどう変わるか|認知の予備力と脳画像の研究で見える効果

英語学び直したいユーイチ
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60 代から英語、本当に意味あるんですかね…

英語独学好きの助教S
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気持ちは分かります。研究の世界では、中高年から始めても脳の使い方が変わると複数の介入研究で示されているんですよ。

英語学び直したいユーイチ
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記憶力ももう若い頃と全然違うし、難しいですよね…

英語独学好きの助教S
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実は加齢で全部下がるわけではなく、脳の中の使い方の幅で維持できる範囲がある、と研究で整理されているんです。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

結局ちょっとした脳トレ程度のものですよね?

英語独学好きの助教S
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結論から言うと、1 種類のドリルより広い範囲に効く可能性が、複数の脳科学の研究で示されているんですよ。

英語学び直したいユーイチ
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では、何から始めれば良いんでしょうか?

英語独学好きの助教S
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今日の記事では、認知の予備力の話から介入研究、そして続け方の 4 原則まで、研究で順に解説していきますね。

結論: 60 代から英語を始めることは『遅すぎる』ではなく、脳の使い方の幅を取り戻すための強い刺激になる [E01]。Stern が整理した認知の予備力 (= ふだんの脳の使い方の引き出しの多さ、というイメージ) の考え方が出発点になる。英語のように複数のことを同時に動かす学習は、ナンプレや 1 種類のドリルより広い範囲に効く可能性がある [E09][E13]。Bialystok ら 2007 年と Bak ら 2014 年の研究では、2 言語を使う人の認知の維持や認知症の出始めのおくれに一定の差が確認されている [E03][E04]。本記事では中高年向けに、何が効き、どこまで効くのかを研究で順に整理する。

この記事でわかること

  • 『脳活』『認知の予備力』という言葉の中身を中学生にも分かる例えで整理する
  • 60 代から英語を始めて本当に脳が変わるかを、高齢者を対象にした介入研究で確かめる
  • 脳画像の研究が『英語の学習で厚くなる場所』として示してきた領域を紹介する
  • 60 代から始める時に現実的に伸びる範囲と、限界も正直に書く
  • 続けやすい『脳活としての英語』の学習設計 4 原則と、避けたい 5 つの失敗を示す

1. そもそも『脳活』とは何か — 認知の予備力という考え方

英語学び直したいユーイチ
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『認知の予備力』って、何ですか?

英語独学好きの助教S
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Stern が整理した、ふだんの脳の使い方の引き出しの多さで、いざという時に別の引き出し方ができる力のことなんです。

『脳活』という言葉はテレビや雑誌でよく使われるが、研究の世界ではほぼ同じ中身を 認知の予備力 (cognitive reserve) と呼んでいる [E01]。Stern が 2002 年に整理したこの考えは、貯金箱の中身ではなく『貯金箱の使い方を何通りも知っていて、いざ困った時に別の引き出し方ができる』というイメージに近い [E01]。教育を受けた年数の長さ・仕事の知的な複雑さ・余暇の活動の多さがその中身となる [E01]。生涯にわたる知的な刺激の蓄えは、加齢や脳の損傷があっても認知の見かけの低下をおくらせると考えられている [E01]。

Stern が 2009 年にまとめた総説では、同じ程度のアルツハイマー型の認知症の脳の病変があっても、教育や知的な活動が多い人は症状が出始める時期が遅いと繰り返し示されている [E02]。これは、ふだん体力をつけている人の方が同じ風邪でも寝込む日数が短く済むのと似ている。脳の構造そのものではなく『ふだんの使い方の幅』が予備力の中身とされている点が重要となる [E02]。

では、なぜ英語が脳活に向くのか。1 つの脳トレドリルが 1 種類の筋トレなら、外国語の学習は全身運動みたいに広い範囲を同時に動かす活動だからである [E09]。語彙を覚える、文法のパターンを当てはめる、相手の話を聞き取る、自分でも声に出す、こういう複数の認知の働きを同時に使う点が、ナンプレや 1 つの脳トレと違う特徴となる。

ここまでのまとめ: 『脳活』の中身は研究では認知の予備力と呼ばれ、ふだんの脳の使い方の幅で決まる。英語の学習はその幅を広げる候補として研究で位置づけられてきた。

2. 60 代から始めても脳は変わるのか — 高齢者を対象にした介入の研究

英語学び直したいユーイチ
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Antoniou ら 2013 年って、何の研究なんですか?

英語独学好きの助教S
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外国語が中高年向けの脳トレに使えると整理した論文で、複数の認知機能を同時に動かすサーキット運動みたいなものと書かれていますよ。

『そうは言っても、60 代から始めて本当に変わるのか』という疑問が当然出てくる。この問いに答える研究が、ここ 15 年ほどで増えてきた。

Antoniou ら 2013 年は、高齢者向けの認知のトレーニングとして外国語の学習が有望である理由を整理した [E09]。外国語の学習は注意の切り替え、作業の記憶 (= 短い時間情報をとどめて操作する記憶のこと)、抑制の制御 (= 別のことに気を取られないように調整する力) を同時に刺激する。1 種類のドリルが 1 種類の筋トレなのに対し、外国語はストレッチと有酸素と筋トレを混ぜたサーキットのような働きをすると論じている。

Wong ら 2012 年は、60-70 代の高齢者を対象に、未経験の声調の言語 (= 音の高さで意味が変わる言語のこと、中国語などが代表例) の聞き分けの訓練を行った [E10]。一定期間の訓練で参加者の聞き分けの正答率が改善した。学習者の中で、訓練前から作業の記憶や実行の機能が高めだった人ほど伸びが大きく、開始時の力の差が結果のばらつきにつながった [E10]。60-70 代の人にも『新しい音の仕分け箱を 1 つ増やす』ことができたという、小さくない結果である [E10]。

Pfenninger と Polz 2018 年は、スロベニアの 60-80 歳 14 人を対象に英語の集中コースを実施した [E11]。3 週間の短期の介入でも、語彙と短期の記憶の指標で改善が見られた [E11]。事前に他の外国語の経験があった人の方が伸びが大きく、楽しい・社交的な雰囲気の維持が継続率に大きく影響したと報告された [E11]。60-80 代でも 3 週間の英語コースで語彙と短期の記憶が伸びた、しかも楽しく続けられる雰囲気が一番大事だった、という具体的な手がかりとなる。

Anderson ら 2018 年は、ふだんどれくらい 2 言語を使っているかを細かく測る物差しを作り、その物差しでよく使う人ほど認知の制御の指標が良いことを示した [E12]。介入を続けるための現実的な要件として、『持続的かつ楽しい使用』が要点になると整理した [E12]。

ここまでのまとめ: 60 代以降の高齢者を対象にした介入の研究でも、語彙・聞き分け・短期の記憶のいずれかが伸びることが確かめられている。続ける雰囲気の作り方が伸びを左右する。

3. バイリンガルの経験と認知症のおくれ — 効果はあるが過信は禁物

中高年の読者がもっとも知りたいテーマの 1 つが『英語をやれば認知症の予防になるのか』である。ここは慎重に整理する必要がある。

Bialystok ら 2007 年の研究では、カナダの記憶クリニックに来た 184 人のアルツハイマー型の認知症の患者を対象に、生涯 2 言語を日常的に使ってきた人と単言語のみの人を比較した [E03]。2 言語の人は単言語の人より、症状の出始めが平均約 4.1 年遅かった [E03]。教育を受けた年数や移民の歴を統計的に揃えても効果は残ったと報告されている [E03]。

Craik ら 2010 年は、前出の研究に追加サンプルを含めた 211 人で同じ問いを再検証した [E05]。2 言語の使用者の症状出始めが、単言語の人より平均約 5.1 年遅いことを再確認した [E05]。教育・職業・移民の歴・性別を揃えた解析でも差は残った。前の研究で見えた『2 言語の人の方が症状が遅い』を、別の人達でもう一度測ったら、もっと差がはっきり出たという形になった [E05]。

Bak ら 2014 年は、1936 年生まれのスコットランドの人 853 人を対象にした大規模な縦断の研究である [E04]。11 歳時点の知能を統計的に揃えたうえで、70 代時点の認知の機能 (注意・読解・一般の知能) を比較した [E04]。2 言語以上を使う人は単言語の人より認知の機能の維持が良かった。第 2 言語を 18 歳以降に習得した人でも効果が見られた点が重要で、これは大人になってから始めても意味があることを示す [E04]。子供の頃の頭の良さの差を引き算しても、70 代になってからの頭の働きが落ちにくかったということになる [E04]。

ただし、これらの結果を額面どおりに受け取ることには注意がいる [E06]。Mukadam ら 2017 年は 13 件の研究を集めた系統的な総合の分析で、観察の研究では関連が見られる一方、研究のばらつきも大きいと指摘した [E06]。移民や教育の水準などの背景を完全に揃えにくい問題があるとも書かれている [E06]。1 つひとつの研究では『差がある』と出ても、全部集めて見ると条件のばらつきが大きく、過信は禁物だよ、という慎重な立場が必要になる [E06]。

『2 言語を使う生活』そのものに効果がある可能性は高いが、『英語を始めれば必ず認知症が遠ざかる』と断言できる段階ではない、というのが正直なところとなる [E06]。

ここまでのまとめ: 観察の研究では 2 言語の使用者の認知症の発症が数年遅い傾向が複数報告されているが、研究の限界もあり、効果はあると見込みつつ過信しない姿勢が大切となる。

4. 脳画像で見える『英語の学習で変わる場所』

英語学び直したいユーイチ
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灰白質って、本当に厚くなるんですか?

英語独学好きの助教S
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Mechelli 2004 年は Nature に短報を載せ、外国語の使用者ほど左下頭頂葉の灰白質の密度が高かったと示しているんです。

研究の世界で英語の学習が脳に与える影響は、脳画像でも測られてきた。

Mechelli ら 2004 年は Nature 誌に短報を載せた [E07]。単言語の 25 人と 2 言語の使用者 25 人 (うち外国語を晩く始めた人 22 人) の脳の構造を比較した [E07]。2 言語の使用者は左下頭頂葉 (= 左耳の少し上あたりの領域、言葉や数の処理に関わる) の灰白質 (= 脳の中で情報を処理する細胞が集まった層) の密度が高かった [E07]。さらに、外国語の熟達度が高いほど、また外国語を始めた年齢が若いほど密度が高かった [E07]。脳の中の『言葉を扱う倉庫』の壁が、外国語を使う人ほど分厚くなっていた、というイメージである [E07]。

Pliatsikas ら 2014 年は、晩く外国語を始めた成人の 2 言語の使用者 20 人と単言語の人 25 人を比較した [E08]。2 言語の使用者は脳の主要な白質 (= 脳の中の通信ケーブルにあたる束) の整い方が良好だった [E08]。加齢で起きやすい白質の劣化を相殺する可能性が示されたという [E08]。脳の中の電気の配線にあたる白い束が、外国語を使う人ほどボサボサにならずに保たれていた、というイメージとなる [E08]。

Park と Bischof 2013 年の総説は、これらをふまえて高齢者の認知の訓練と脳の可塑性 (= 脳が経験に応じて変わる性質のこと) を整理した [E13]。短時間の 1 種類の課題の訓練は『その課題内』では効くが、日常への転移は限定的である。一方で、複数の認知の機能を同時に使う『複合的で挑戦的な活動』(楽器・新しい言語・創作の活動など) の方が広い転移が期待できると論じている [E13]。1 つだけのドリルを毎日やるより、ちょっと難しい新しい遊びをまるごと続ける方が、脳の広い範囲に効く、というイメージである。

ここまでのまとめ: 脳画像の研究では、外国語の使用者の灰白質の密度や白質の整い方が単言語の人より良好な傾向が報告されている。中高年から始めても構造の可塑性が起こる余地は残されている。

5. 60 代から始める時の現実的な伸びと限界

ここまで前向きな話が続いたが、正直に書いておくべき限界もある。

Wong ら 2012 年でも、訓練前から作業の記憶や実行の機能が高めだった人ほど伸びが大きかった [E10]。これは『始める時点の認知の余力』が結果のばらつきを生むことを示しており、誰もが同じように伸びるわけではないことを意味する。

Pfenninger と Polz 2018 年も、3 週間の介入で語彙と短期の記憶の指標が伸びた一方、文法や長文の読解の指標は限定的だったと報告している [E11]。短期で大きく動くのは新しく覚えた単語と、それを思い出す力の部分で、英文を組み立てる力までは 3 週間では届きにくい。

発音についても、60 代から始めて完全にネイティブの音に近づけることは現実的ではない。それでも聞き取りと産出のいずれも改善は可能だと先行の研究で示されている。Mukadam 2017 年が指摘するように、効果の大きさは個人差・継続条件・もとの認知の状態に強く左右される。

ここから得られる現実的な姿勢は次の 4 点となる。第 1 に、効果はあると見込んで始めてよい。第 2 に『始めれば必ず劇的に変わる』とは思わない。第 3 に、短期で大きく動くのは語彙と短期の記憶であり、文章の理解は半年〜1 年単位で見る。第 4 に、楽しく続けられる雰囲気の維持が最大の決定要因となる [E11][E12]。

ここまでのまとめ: 短期で動くのは語彙と短期の記憶、文章の理解はもう少し長い時間軸で見る。続けやすさの工夫が最大の決定要因となる。

6. 脳活として効く学習設計 4 原則

英語学び直したいユーイチ
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1 日どれくらいやれば良いんですか?

英語独学好きの助教S
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Pfenninger 2018 年と Wong 2012 年では、長時間より毎日 15-20 分・小さな負荷の方が続いて伸びると報告されていますよ。

ここまでの研究から、60 代以降の脳活として英語を続けるための設計を 4 つに整理する。

原則 1: 多様な刺激を組み合わせる。Antoniou ら 2013 年と Park ら 2013 年が示すように、1 つの課題だけ繰り返すより、聞く・読む・話す・書くを少しずつ混ぜる方が広い範囲に転移しやすい [E09][E13]。1 つのアプリだけに頼らず、ラジオ英会話・易しい英文の絵本・短い会話の練習を曜日ごとに切り替える形が現実的である。

原則 2: 小さな負荷で始める。Pfenninger と Polz 2018 年は、楽しい・社交的な雰囲気の維持が継続率を大きく左右したと報告している [E11]。最初から長時間集中する設計は続かない。1 日 15-20 分、難しすぎないレベルから始めて、徐々に広げる方が長く続く。

原則 3: 定期的に反復する。Wong ら 2012 年も Pfenninger と Polz 2018 年も、訓練の頻度と継続が伸びの土台になることを示している [E10]。週に 1 回 2 時間より、毎日 15-20 分の方が記憶の定着には効きやすい。

原則 4: 楽しく続けられる難易度に保つ。Anderson ら 2018 年は『持続的かつ楽しい使用』を介入の要件として挙げた [E12]。難しすぎても易しすぎても続かない。今の自分にとって『少し背伸びすれば届く』レベルを意識的に選ぶ姿勢が、結果的に長期の継続を作る。

具体的な週間メニュー例を 1 つ示す。月・水・金は 15 分のラジオ英会話、火・木は 10 分の英単語、土は易しい英文の絵本を 15 分、日は 30 分のオンラインのレッスンか英会話カフェ、という形である。複数の入り口を曜日で切り替えると、4 原則を満たしやすい構成となる。

ここまでのまとめ: 多様な刺激・小さな負荷・定期反復・楽しく続けられる難易度の 4 点を満たす設計が、脳活としての英語を長く続けるための土台になる。

7. やってはいけない 5 つの失敗

英語学び直したいユーイチ
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若い人より伸びないと、どうしても凹みます…

英語独学好きの助教S
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Bak ら 2014 年では、子供の頃の力を引いても 70 代の認知の維持が良かったと示されており、比べる相手は過去の自分が現実的なんです。

最後に、研究の知見からはずれやすい『よくある失敗』を 5 つ整理する。

失敗 1: 詰め込み学習に走る。短期間で覚えようと毎日 2 時間以上を 1 週間続け、その後挫折するパターンが多い。Park と Bischof 2013 年が示すように、続けられない強度は予備力の蓄積につながらない [E13]。

失敗 2: アプリだけに頼る。1 つのアプリの中で同じ形式の課題ばかり繰り返すと、その課題内では伸びてもほかへの転移が小さい。多様な入り口を持つことが脳活の核心となる。

失敗 3: 完璧主義になる。発音をネイティブに近づけよう、文法ミスを 0 にしようと思うと、続ける気力が削られる。Pfenninger 2018 年が示すように、続ける雰囲気の維持が一番効く。

失敗 4: 短期で諦める。短期で動くのは語彙と短期の記憶であり、文章の理解や会話の力の伸びは半年〜1 年単位で見るべき指標である。3 週間で結果が出ないからやめる、というのは時期の見立てを誤っている。

失敗 5: 若い学習者と比較して凹む。Bak ら 2014 年が示すように、年齢相応のペースで認知の機能の維持はちゃんと起こる [E04]。若い人と比べるのではなく、6 ヶ月前の自分・1 年前の自分と比べる物差しを採用すべきである。

ここまでのまとめ: 詰め込み・アプリ単独依存・完璧主義・短期諦め・比較疲れの 5 つを避けることが、脳活としての英語を続けるための実務的な要点となる。

FAQ

Q1. 60 代から始めても本当に脳に効くのですか?

短期で大きく動くのは語彙と短期の記憶です。Pfenninger と Polz 2018 年は 60-80 歳の介入で 3 週間後に語彙と短期の記憶の改善を確認しました [E11]。文章の理解はもう少し長い時間軸で見る必要があります。

Q2. 認知症の予防になりますか?

複数の観察の研究では 2 言語の使用者の認知症の発症が平均 4-5 年遅い傾向が報告されています。ただし Mukadam 2017 年は研究の限界も指摘しており、『効果はあると見込みつつ過信しない』姿勢が現実的です [E06]。

Q3. 1 日どれくらいやれば良いですか?

1 日 15-20 分から始めるのが目安となります。Wong 2012 年も Pfenninger 2018 年も、頻度と継続が伸びの土台になることを示しています。週 1 回 2 時間より毎日 15 分の方が記憶の定着には効きやすいです。

Q4. ナンプレや脳トレアプリと比べてどちらが良いですか?

Park と Bischof 2013 年は、1 つの課題の訓練は『その課題内』では効くが日常への転移は限定的だと整理しています。聞く・読む・話す・書くを混ぜられる英語の方が、複合的な刺激として広い範囲に効きやすいと考えられます。

Q5. 発音が下手なままでも意味がありますか?

意味があります。脳活としての効果は、ネイティブ並みの発音に到達することではなく、ふだんの脳の使い方の幅を広げることにあります。聞き取りの改善は 60 代でも報告されています。

まとめ

60 代から英語を始めることは『遅すぎる』ではなく、脳の使い方の幅を取り戻すための強い刺激になる。Stern が整理した認知の予備力の考え方に立つと、英語のように複数の認知の働きを同時に使う活動は、ナンプレや 1 種類のドリルより広い範囲に効く可能性がある。Bialystok や Bak らの観察の研究では 2 言語の使用者の認知の機能の維持や認知症のおくれの傾向が複数報告された [E03]。Mechelli や Pliatsikas の脳画像の研究では構造の変化も示されている [E07][E08]。

ただし効果は個人差・継続条件・もとの状態に左右されるため、過大な期待は禁物となる。短期で動くのは語彙と短期の記憶、文章の理解は半年〜1 年単位で見る心構えが必要となる。

多様な刺激・小さな負荷・定期反復・楽しく続けられる難易度の 4 原則を守りたい。詰め込み・アプリ単独依存・完璧主義・短期諦め・比較疲れの 5 つの失敗を避ければ、英語の学習は脳活として現実的な役割を果たしてくれる。今日から 1 日 15 分の英語を、半年・1 年と続けてみる価値は十分にある。

参考文献

  1. Stern, Y. (2002). What is cognitive reserve? Journal of the International Neuropsychological Society, 8(3), 448-460.
  2. Stern, Y. (2009). Cognitive reserve. Neuropsychologia, 47(10), 2015-2028.
  3. Bialystok, E., Craik, F. I. M., & Freedman, M. (2007). Bilingualism as a protection against the onset of symptoms of dementia. Neuropsychologia, 45(2), 459-464.
  4. Bak, T. H., Nissan, J. J., Allerhand, M. M., & Deary, I. J. (2014). Does bilingualism influence cognitive aging? Annals of Neurology, 75(6), 959-963.
  5. Craik, F. I. M., Bialystok, E., & Freedman, M. (2010). Delaying the onset of Alzheimer disease: Bilingualism as a form of cognitive reserve. Neurology, 75(19), 1726-1729.
  6. Mukadam, N., Sommerlad, A., & Livingston, G. (2017). The relationship of bilingualism compared to monolingualism to the risk of cognitive decline or dementia. Journal of Alzheimer’s Disease, 58(1), 45-54.
  7. Mechelli, A., et al. (2004). Neurolinguistics: Structural plasticity in the bilingual brain. Nature, 431(7010), 757.
  8. Pliatsikas, C., Moschopoulou, E., & Saddy, J. D. (2014). The effects of bilingualism on the white matter structure of the brain. PNAS, 112(5), 1334-1337.
  9. Antoniou, M., Gunasekera, G. M., & Wong, P. C. M. (2013). Foreign language training as cognitive therapy for age-related cognitive decline. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 37(10), 2689-2698.
  10. Wong, P. C. M., et al. (2012). Building cognitive reserve through high-functioning aging: Tone language training in older adults. PLOS ONE, 7(11), e49099.
  11. Pfenninger, S. E., & Polz, S. (2018). Foreign language learning in the third age. Journal of the European Second Language Association, 2(1), 1-13.
  12. Anderson, J. A. E., Mak, L., Chahi, A. K., & Bialystok, E. (2018). The language and social background questionnaire. Behavior Research Methods, 50(1), 250-263.
  13. Park, D. C., & Bischof, G. N. (2013). The aging mind: neuroplasticity in response to cognitive training. Dialogues in Clinical Neuroscience, 15(1), 109-119.

最終更新日: 2026-06-20
著者: greencafe 編集部。公開された 13 件の研究エビデンス(tier 1=A 13 件 / tier 2=B 0 件)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より

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