英語を話すのが怖い・とっさに出てこないのはなぜ?不安の正体を研究で解きほぐす

英語を前に緊張してこわばった表情で歩く男性と、案内を読めてほっと安心する人を左右に並べた、いらすとや風のイラスト。話すことへの不安と、その和らぎを表す。 英語学習

英語を話すのが怖い・とっさに出てこないのはなぜ?不安の正体を研究で解きほぐす

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

英語を話そうとすると頭が真っ白になるんです。これって僕の性格の問題ですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

気持ちはわかります。ただ外国語学習の研究では、その固まりは性格ではなく特別な緊張だと示されているんですよ。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

でも同じ悩みの人なんて、そんなにいない気がして…。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

実は多くの学習者に共通する現象なんです。外国語不安の研究は、それを正面から調べる分野として長く積み上がっています。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

研究で分かるって言われても、僕みたいなのが変われるんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

多くの人がそこで不安になります。ただ研究は、それを性格ではなく設計できる問題として整理しているんですよ。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

じゃあ、まず何から知ればいいのか教えてほしいです。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

この記事では研究を 10 本並べて、固まる正体と不安の下げ方を 1 つずつ、中学生にもわかる形で解いていきますね。

結論: 英語だと固まるのは性格でも根性不足でもない [E01]。
外国語を使うときだけに出る特別な緊張、外国語不安が正体だ [E01]。
この不安は頭の作業スペースを奪い、覚えた言葉をとっさに隠してしまう [E02]。
不安が高いほど、聞いた英語も頭に入りにくくなる [E03]。
だが研究の合意点は「不安をゼロにする」ことではない [E06]。
話したい気持ち (WTC) と楽しさを不安より少し大きくすれば口は動く [E04][E06]。
この記事では、その正体と下げ方を研究で 1 つずつ解いていく。

この記事でわかること

  • 英語を話すときに固まるのは「性格」なのか、それとも別物なのか
  • 不安があると頭の中で実際に何が起きて、言葉が出てこなくなるのか
  • 同じ実力でも話せる人と固まる人の差は、どこにあるのか
  • 不安を消さずに、話したい気持ちを大きくして口を動かす研究の道すじ

なぜ英語だと頭が真っ白になるのか — それは性格ではなく特別な緊張

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

英語のときだけ緊張するのって、やっぱり僕が弱いからですよね…。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

そうではないんですよ。Horwitz ら 1986 の研究は、その緊張があがり症や生まれつきの性格とは区別できる別物だと示しています。

英語を話す場面で頭が真っ白になると、人は「自分は緊張しやすい性格だから」と考えがちだ。だが研究は、その自己否定にまず待ったをかける。よく引かれるのが Horwitz, Horwitz & Cope 1986 の基礎研究だ [E01]。英語などの外国語を使う人の緊張を、正面から調べた研究だ [E01]。

この研究が示したのは、外国語を話すときの緊張は独立した感情だということだ。外国語不安 (= 母国語なら平気なのに外国語のときだけ出る特別な緊張、というイメージ) は、あがり症や生まれつきの性格とは区別できる [E01]。母国語なら平気なのに外国語で急に入るスイッチのようなものだ [E01]。

この研究は、外国語不安を測るための 33 項目の質問紙も作った [E01]。FLCAS (= 外国語を使うときの緊張の強さを点数で測るものさし、というイメージ) と呼ばれる [E01]。以後の外国語不安の研究は、この物差しを土台に積み上がっていった [E01]。

大事なのは、この緊張が「三つの怖さ」の重なりだと整理された点だ [E01]。人と話すのが怖い、試験が怖い、下手だと思われるのが怖い、の三つだ [E01]。だから「固まるのは自分だけの弱さ」ではなく、多くの学習者に共通して起きる現象だと分かる [E01]。

しかも、この不安は「気のせい」では片づけられない。Teimouri, Goetze & Plonsky 2019 のメタ分析が、その実在を数で裏づけている [E10]。メタ分析 (= たくさんの研究結果を合算して全体の傾向を出す手法、というイメージ) だ [E10]。

このメタ分析によれば、外国語不安が高いほど成績や到達度が下がる、という関係が見られた [E10]。その負の関係は、言語や年齢がちがっても一貫していた [E10]。強さは中くらい (= 100人いたら多くの人で不安と成績の下がりが結びつく程度、というイメージ) だった [E10]。

ここまでのまとめ: 英語で固まるのは性格ではなく、外国語のときだけ出る独立した感情、外国語不安が正体だと研究は示している。多くの学習者に共通する現象で、成績にも中くらいの影響が数で確認されている。

不安があると頭の中で何が起きているのか — 作業スペースを奪われる

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

覚えたはずの単語が、いざとなると全然出てこないんです。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

それは実力が消えたのではないんですよ。MacIntyre & Gardner の研究では、不安が頭の作業スペースを奪って言葉を隠すと実験で示されています。

「覚えたはずの単語が、いざとなると出てこない」という経験は多い。これは実力が消えたわけではなく、不安が邪魔をしている。それを実験で示したのが MacIntyre & Gardner 1991,1994 の研究だ [E02]。不安が頭の働きに与える影響を調べた中心研究だ [E02]。

この研究のカギは、頭の中の「作業スペース」にある。作業スペース (= 一度に考えたり覚えたりしておける頭の広さ、というイメージ) は限りがある [E02]。机の広さが決まっているのと同じで、一度に広げられる量には上限がある、というイメージだ [E02]。

不安が高いと、この作業スペースの一部が「不安な考え」に占領される [E02]。すると本来の言語処理に使える場所が減り、言葉が出にくくなる [E02]。机の上を心配ごとが占領し、やりたい作業を広げる余白が残らない状態だ [E02]。

しかも不安は、聞き取り・考える・話すの各段階すべてで邪魔をすると整理された [E02]。英語を意図的に緊張させると、単語を思い出す成績も、文を作る成績も下がった [E02]。「実力がない」のではなく「不安が実力の発揮を邪魔している」と読み替えられる [E02]。

この見方は、先ほどのメタ分析とも噛み合う [E10]。不安が高いほど成績が下がるという全体傾向は、この作業スペースの奪い合いで無理なく説明できる [E10]。つまり「出てこない」の多くは、実力不足ではなく不安による目詰まりだ [E10]。

だから、とっさに言葉が出なかった自分を責めても意味がない。むしろ「不安を少し下げれば、同じ実力でももっと出せる」と考えるほうが研究に合う。落ち込みを減らすこと自体が、次に話すときの余白を広げてくれる。

ここまでのまとめ: 不安は頭の限られた作業スペースを奪い、覚えた言葉をとっさに隠してしまう、と研究は示している。出てこないのは実力不足ではなく、不安による目詰まりだと読み替えられる。

不安が高いと英語が頭に入らない — 情意フィルターというフタ

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

緊張してると、英語を聞いても頭に入ってこない気がして。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

その感覚は正しいんですよ。Krashen 1982 の情意フィルター仮説は、不安が高いと心にフタが下りて英語が入りにくくなると論じています。

不安は「話す」だけでなく「聞いて覚える」段階にも影響する。緊張した状態では、浴びた英語が身につきにくいのだ。これを理論化したのが Krashen 1982 の古典だ [E03]。第二言語をどう身につけるかを論じた本だ [E03]。

この本の中心にあるのが、情意フィルター仮説だ [E03]。情意フィルター (= 不安が高いほど閉じてしまう、心の透過フタ、というイメージ) という考え方だ [E03]。不安や自信のなさが強いと、心にフタが下りると考える [E03]。

フタが下りていると、理解できる英語を浴びてもそれが身につきにくい [E03]。緊張で耳がふさがるように、不安が英語をはじいてしまうイメージだ [E03]。逆に安心できる低不安の状態では、フタが下がって英語が入りやすくなる [E03]。

ここから大事な読み替えができる。英語を伸ばすには、量を浴びるだけでなく「安心できる状態で浴びる」ことが効く [E03]。怖い場で無理に浴びるより、安心できる小さな場のほうが身につきやすい、というわけだ [E03]。

この仮説は、厳密な因果の証明という点では限界も指摘されてきた [E03]。それでも外国語不安と習得を結ぶ枠組みとして、今も広く参照される SLA の古典だ [E03]。SLA (= 第二言語をどう身につけるかを研究する分野、というイメージ) の土台のひとつだ [E03]。

だから「怖いのに耐えて場数を踏め」という根性論には、少し注意がいる。安心できる相手や場を選ぶことは、逃げではなく研究に合った近道だ。フタを下げる工夫が、そのまま吸収力を上げてくれる。

ここまでのまとめ: 不安が高いと心にフタ (情意フィルター) が下りて、聞いた英語が頭に入りにくくなる、と研究は示している。安心できる場で浴びるほど身につきやすい、という前向きな読み替えができる。

同じ実力でも話せる人と固まる人の差はどこか — 話す気持ちの階層

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

同じくらいの英語力でも、進んで話す人と黙る人がいますよね。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

そこが肝心なんです。MacIntyre ら 1998 は、実力が同じでも WTC という話したい気持ちが高い人ほど実際に口を動かすと整理しました。

同じくらいの英語力なのに、進んで話す人と黙ってしまう人がいる。この差はどこから来るのか。それを説明するのが MacIntyre, Clément, Dörnyei & Noels 1998 の理論だ [E04]。話す一歩手前の気持ちを整理した中心理論だ [E04]。

この理論の主役が WTC だ [E04]。WTC (= 話したくなる気持ち・進んで話そうとする意志、というイメージ) のことだ [E04]。英語では willingness to communicate と書く [E04]。この研究は、WTC をピラミッド型の階層で整理した [E04]。

ピラミッドの頂点には「その場で話したい意志」がある [E04]。その下を、自信・動機・性格・社会の状況といった層が支える構造だ [E04]。つまり、実際に話すかどうかは、この頂点の WTC で決まる [E04]。

ここで大事なのは、「話す力」と「話したい気持ち」は別物だという整理だ [E04]。能力が同じでも、WTC が高い人ほど実際に口を動かす [E04]。飛び込む力はあっても、飛び込み台の手前で足がすくむかどうかで結果が変わる、というイメージだ [E04]。

とくに話す直前の「自分は話せる」という感覚が、WTC を大きく左右すると示された [E04]。この点を実データで補強したのが MacIntyre, Baker, Clément & Donovan 2002 だ [E09]。中学生の学習者を調べた研究だ [E09]。

この研究では、不安が低く「自分は話せる」と感じる人ほど WTC が高かった [E09]。知覚された能力 (= 実際の実力より、自分でどれだけ話せると感じているか、というイメージ) が効いていた [E09]。小さな成功を積んで「自分はいける」と思えるほど、手を挙げる回数が増えるイメージだ [E09]。

ここまでのまとめ: 実力が同じでも話せる人と固まる人が分かれるのは、話す一歩手前の WTC (話したい気持ち) の差だと研究は示している。「話す力」より「話したい気持ち」を上げるほうが、口を動かす近道になる。

日本人が特に話すのをためらう背景 — 世界とつながる意識

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

日本人が英語を話すの苦手なのって、やっぱり国民性ですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

国民性ではないんですよ。Yashima 2002 は、世界とつながりたい気持ちが高い人ほど、日本人でも話したい気持ちが強いと実測で示しています。

「日本人は英語を話すのが苦手」とよく言われる。だがこれを国民性や性格で片づけるのは早い。日本人を対象に実測したのが Yashima 2002 の研究だ [E05]。日本の英語学習者を調べた代表研究だ [E05]。

この研究の主役が international posture だ [E05]。international posture (= 英語の先にいる人や世界とつながりたいという構え、というイメージ) のことだ [E05]。日本語では国際的志向性とも呼ばれる [E05]。

この研究は、要因のつながりを図で検証する統計手法で分析した [E05]。構造方程式モデリング (= どの気持ちがどの気持ちに影響するかを、図と数で確かめる方法、というイメージ) だ [E05]。すると、ある明確な経路が見えた [E05]。

分かったのは、世界とつながりたい気持ちが高い人ほど、英語を話したい気持ち (WTC) も高くなる、という関係だ [E05]。行きたい国や会いたい人がいるほど、道具である英語を使う手が動きやすくなる、というイメージだ [E05]。

これは見方を大きく変えてくれる。日本人が話すのをためらう背景は、性格や国民性ではなく「世界への関心の強さ」で説明できる [E05]。糸口は「英語をうまく話すこと」より「英語の先にある世界に関心を持つこと」にある [E05]。

だから、英語そのものを頑張る前に「英語で誰と何をしたいか」を思い描くのが効く。会いたい人や見たい国が具体的なほど、口を動かす気持ちは自然に上がる。世界への関心が、そのまま話したい気持ちの燃料になる。

ここまでのまとめ: 日本人が話すのをためらう背景は、性格のせいではない。世界とつながりたい気持ち (international posture) の高さで説明できる、と研究は示している。英語の先にいる人や世界への関心が、話したい気持ちを押し上げる。

不安はゼロにしなくていい — 楽しさが不安を上回れば話せる

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

でも、不安を消さないと話せるようにならないですよね…。

英語独学好きの助教S
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そこが逆なんですよ。Dewaele & MacIntyre 2014 は、楽しさと不安は同時に存在でき、楽しさが少し上回れば話せると示しました。

多くの人は「不安を消さなければ話せない」と思い込んでいる。だが研究は、その前提そのものをひっくり返した。カギになるのが Dewaele & MacIntyre 2014 の研究だ [E06]。楽しさと不安を同時に測った代表研究だ [E06]。

この研究の主役が FLE だ [E06]。FLE (= 外国語を使うのが楽しいと感じる気持ち、というイメージ) のことだ [E06]。英語では foreign language enjoyment と書く [E06]。この研究は約 1,700 人規模で、FLE と外国語不安を同時に測った [E06]。

分かったのは、楽しさと不安は「正反対の一枚のもの」ではないということだ [E06]。二つは別々の軸として、同時に存在できると示された [E06]。怖いけど楽しい遊園地のアトラクションのように、不安と楽しさは同居できる、というイメージだ [E06]。

しかも回答者全体では、不安よりも楽しさを感じる度合いのほうが平均で高かった [E06]。ここから前向きな転回が生まれる [E06]。楽しさが不安を少し上回ったとき、人は前向きに取り組み、口も動きやすくなる [E06]。

この発見は、力の入れどころを変える。「不安を消そう」と頑張るより「楽しさを増やそう」とするほうが、研究的に理にかなう [E06]。これはポジティブ心理学 (= 弱点を直すより強みや前向きな感情を伸ばす心理学、というイメージ) の発想だ [E06]。

だから、不安がゼロにならない自分を責める必要はない。怖さが残っていても、楽しさがそれを少し上回れば話せる。好きな話題、笑える相手、楽しい教材を選ぶことは、そのまま不安対策になる。

ここまでのまとめ: 楽しさ (FLE) と不安は別々の軸で同時に存在でき、楽しさが不安を少し上回れば話せる、と研究は示している。「不安を消す」より「楽しさを増やす」ほうに力を入れるのが理にかなう。

研究に沿った不安の下げ方 — 小さく安全に・完璧をやめる・理想の自分を描く

ここまでの研究は、具体的な下げ方につながっている。まず土台になるのが「小さく安全な場から慣らす」ことだ。これを支えるのが MacIntyre 2007 の研究だ [E08]。話す意志を状況の面から捉え直した研究だ [E08]。

この研究は、話す・話さないは性格で固定されていないと示した [E08]。WTC はその場その場で上下する意志のプロセス (= 話す直前に、話したい気持ちと不安がせめぎ合って決まる流れ、というイメージ) だ [E08]。同じ人でも相手や場所しだいで口が軽くも重くもなる [E08]。

だから相手・話題・場の雰囲気を整えれば、同じ人でも WTC を上げられる [E08]。怖くない相手と、好きな話題を、失敗しても平気な場で話す [E08]。この順番なら、情意フィルターも下がり、成功体験も積みやすい [E03][E09]。

次に効くのが「完璧をやめる」ことだ。間違えないように、と気負うほど、否定的評価への恐れが高まり作業スペースが奪われる [E01][E02]。むしろ「通じればいい」と割り切るほうが、不安が下がり言葉が出やすくなる。

最後の仕上げが「なりたい自分を描く」ことだ。ここで役立つのが Dörnyei 2005/2009 の理論だ [E07]。学ぶ意欲の源を整理した基礎理論だ [E07]。中心にあるのが、理想の L2 自己という考え方だ [E07]。

理想の L2 自己 (= 英語を話せている「こうなりたい未来の自分」の姿、というイメージ) が原動力になる [E07]。なりたい自分と今の自分の差が、それを埋めようとする意欲を生む [E07]。その像が具体的で鮮明なほど、意欲は強くなる [E07]。なりたい自分の写真を貼ると足取りが軽くなる、というイメージだ [E07]。

ここまでのまとめ: 研究に沿った下げ方は、小さく安全な場から慣らし、完璧をやめ、なりたい自分像を具体的に描くことだ。状況を整えれば WTC は上がり、理想の自分像は不安を前向きな意欲に変えてくれる。

結局どうすればいいのか — 研究からの落としどころ

最後に、ここまでの研究を一つの絵にまとめ直したい。まず全体像はこうだ。英語で固まるのは性格ではなく、外国語のときだけ出る特別な感情、外国語不安が正体だった [E01]。

その不安は三つの段階で邪魔をする [E02][E03]。頭の作業スペースを奪って言葉を隠し、心のフタを下ろして英語を入りにくくする [E02][E03]。だから「出てこない」の多くは、実力不足ではなく不安による目詰まりだった [E02][E10]。

だが差を分けるのは実力そのものではなかった。話す一歩手前の WTC、つまり話したい気持ちだ [E04]。しかも WTC は性格で固定されず、その場の状況で上下する [E08]。日本人では、世界とつながりたい気持ちがその WTC を押し上げていた [E05]。

ここから研究の合意点が見えてくる。目標を「不安をゼロにする」に置くのはやめたほうがいい [E06]。楽しさ (FLE) と不安は同居できるからだ [E06]。目標は「話したい気持ちを不安より少し大きくする」に置き換える [E04][E06]。

そのために手渡せる道具は三つだ。第一に、小さく安全な場から慣らして自信を積む [E08][E09]。第二に、完璧をやめて「通じればいい」と割り切る [E01]。第三に、英語を話せている理想の自分を具体的に描く [E07]。

不安がゼロにならない自分を責める必要はない。研究が言うのは、不安を消すことではなく、話したい気持ちと楽しさで不安を少し上回ることだ [E06]。その一歩を、安心できる小さな場から始めればいい。

ここまでのまとめ: 目標を「不安をゼロにする」から「話したい気持ちを不安より少し大きくする」に置き換えるのが研究の合意点だ。小さく安全な発話・完璧をやめる・なりたい自分像の三つを手に、口は動き出す。

FAQ

Q. 英語を話すと頭が真っ白になります。性格の問題ですか

A. 性格の問題ではありません。Horwitz, Horwitz & Cope 1986 は、英語を話すときの緊張が、あがり症や生まれつきの性格とは区別できる独立した感情だと示しました [E01]。外国語不安と呼ばれ、多くの学習者に共通して起きる現象です [E01]。「自分だけが弱い」わけではありません。

Q. 覚えた単語がとっさに出てこないのはなぜですか

A. 実力が消えたのではなく、不安が邪魔をしています。MacIntyre & Gardner 1991,1994 は、不安が頭の作業スペースを奪い、単語や文が出にくくなると実験で示しました [E02]。机の上を心配ごとが占領する状態です。不安を少し下げれば、同じ実力でももっと出せます [E10]。

Q. WTC とは何ですか。英語力とは違うのですか

A. WTC は「話したくなる気持ち」で、英語力とは別物です。MacIntyre ら 1998 は、実力が同じでも WTC が高い人ほど実際に話すと整理しました [E04]。話す一歩手前で足がすくむかどうかの差です。小さな成功で「自分は話せる」と感じるほど、WTC は上がります [E09]。

Q. 日本人が英語を話すのが苦手なのは国民性ですか

A. 国民性ではありません。Yashima 2002 は、世界とつながりたい気持ち (international posture) に注目しました。この気持ちが高い人ほど、日本人でも英語を話したい気持ちが高くなると実測で示しています [E05]。英語をうまく話すことより、英語の先にいる人や世界に関心を持つことが糸口になります。

Q. 不安をゼロにしないと話せませんか

A. ゼロにする必要はありません。Dewaele & MacIntyre 2014 は、楽しさ (FLE) と不安は別々の軸で同時にあり、楽しさが不安を少し上回れば話せると示しました [E06]。怖くても楽しさが勝てば口は動きます。「不安を消す」より「楽しさを増やす」ほうが研究に合っています [E08]。

Q. まず何から始めればいいですか

A. 小さく安全な場から慣らすのが研究に沿った順番です。MacIntyre 2007 は、相手や場を整えれば同じ人でも話せると示しました [E08]。完璧をやめて「通じればいい」と割り切り [E01]、英語を話せている理想の自分を具体的に描くと [E07]、不安が前向きな意欲に変わります。

まとめ

英語を話すのが怖い・とっさに出てこない、という悩みを研究のレンジで読み直すと、風景が落ち着いて見えてくる。

まず、固まるのは性格ではなかった。Horwitz, Horwitz & Cope 1986 は、それを外国語のときだけ出る独立した感情、外国語不安だと示した [E01]。Teimouri ら 2019 のメタ分析も、その実在を数で裏づけている [E10]。

不安が頭の中で何をするかも分かった。MacIntyre & Gardner は作業スペースを奪う仕組みを [E02]、Krashen は心のフタが英語をはじく仕組みを示した [E03]。「出てこない」の多くは実力不足ではなく、不安による目詰まりだ。

差を分けるのは実力より WTC だった。MacIntyre ら 1998 は話す気持ちの階層を示した [E04]。MacIntyre ら 2002 はそれを実データで確かめ [E09]、MacIntyre 2007 はその場ごとの揺れを示した [E08]。Yashima 2002 は、日本人では世界への関心がその WTC を押し上げると示した [E05]。

そして落としどころはひとつだ。Dewaele & MacIntyre 2014 の通り、目標は「不安をゼロにする」ではなく「楽しさと話したい気持ちで不安を少し上回る」ことだ [E06]。Dörnyei の理想の L2 自己の通り、なりたい自分を描けば不安は意欲に変わる [E07]。小さく安全な場から、完璧をやめて始めればいい。それが研究の言う、いちばん落ち着いた歩き方だ。

参考文献

  • [E01] Horwitz EK, Horwitz MB, Cope J (1986). Foreign Language Classroom Anxiety. The Modern Language Journal, 70(2): 125-132. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.1986.tb05256.x
  • [E02] MacIntyre PD, Gardner RC (1994). The subtle effects of language anxiety on cognitive processing in the second language. Language Learning, 44(2): 283-305 (関連: 1991, 41(4): 513-534). https://doi.org/10.1111/j.1467-1770.1994.tb01103.x
  • [E03] Krashen SD (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon Press. https://www.sdkrashen.com/content/books/principles_and_practice.pdf
  • [E04] MacIntyre PD, Clément R, Dörnyei Z, Noels KA (1998). Conceptualizing willingness to communicate in a L2: A situational model of confidence and affiliation. The Modern Language Journal, 82(4): 545-562. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.1998.tb05543.x
  • [E05] Yashima T (2002). Willingness to communicate in a second language: The Japanese EFL context. The Modern Language Journal, 86(1): 54-66. https://doi.org/10.1111/1540-4781.00136
  • [E06] Dewaele JM, MacIntyre PD (2014). The two faces of Janus? Anxiety and enjoyment in the foreign language classroom. Studies in Second Language Learning and Teaching, 4(2): 237-274. https://doi.org/10.14746/ssllt.2014.4.2.5
  • [E07] Dörnyei Z (2009). The L2 Motivational Self System. In Dörnyei & Ushioda (eds.), Motivation, Language Identity and the L2 Self. Multilingual Matters (関連: 2005, The Psychology of the Language Learner, Lawrence Erlbaum). ISBN 978-1847691279
  • [E08] MacIntyre PD (2007). Willingness to communicate in the second language: Understanding the decision to speak as a volitional process. The Modern Language Journal, 91(4): 564-576. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.2007.00623.x
  • [E09] MacIntyre PD, Baker SC, Clément R, Donovan LA (2002). Sex and age effects on willingness to communicate, anxiety, perceived competence, and L2 motivation among junior high school French immersion students. Language Learning, 52(3): 537-564. https://doi.org/10.1111/1467-9922.00194
  • [E10] Teimouri Y, Goetze J, Plonsky L (2019). Second language anxiety and achievement: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 41(2): 363-387. https://doi.org/10.1017/S0272263118000311

最終更新日: 2026-07-19
著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された 10 件の研究エビデンス(すべて tier 1 の一次研究・メタ分析)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より

この記事を編集した人

中村 拓(Taku Nakamura)のポートレート

(編集責任者 / 応用言語学・第二言語習得 エディター(非ネイティブ話者))

応用言語学のバックグラウンドを持つ英語学習分野のエディターで、査読済み SLA 論文・応用言語学ジャーナル・公的機関資料の横断要約と再構成を担当する編集責任者です。非ネイティブ英語話者で、大人の英語学び直しを研究の視点で編集しています。

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