TOEIC高得点なのに話せない理由|「物差し」の違いを研究で読み解く

TOEICで800点取ったのに、全然話せないんです…

気持ちはわかります。実はそのギャップ、研究では「物差しの違い」として説明できると言われているんですよ。

周りは点数低くても話せてたりして、正直へこみます。

多くの人が同じ壁にぶつかります。テストの点数と話す力の関係は、言語テストの研究で古くから調べられてきた領域なんです。

研究で分かると言われても、僕にも当てはまるんでしょうか…?

大丈夫です。研究はこれを気合い不足ではなく、物差しの設計と練習の仕方という問題として整理しているんです。

じゃあ具体的に、何がどう違うのか知りたいです!

この記事ではこれから、関連する研究を8件たどりながら、そのズレが生まれる理由を一緒に整理していきましょう。
結論: 研究では、TOEIC(L&R)はもともと「聞く・読む」という受け取る力を測る物差しとして作られている。「話す・書く」という発信する力を直接測る目盛りは付いていないと整理されている。実際にスコア同士を比べたETSの分析でも、聞く読むの点数と話す点数の関係は中程度にとどまる。片方から片方をピタリと言い当てられるほど強くはない。さらに、知識として「知っている」ことと、とっさに口から「使える」ことの間には、練習を通じた自動化という別の壁があることも分かっている。高得点なのに話せないのは、努力不足でも点数の嘘でもない。
この記事でわかること
- 「高得点なのに話せない」が矛盾ではなく、物差しの設計上当然の現象であること
- TOEIC(L&R)のスコアと話す力の対応関係が、研究データでどの程度なのか
- 「知っている」知識と「とっさに使える」知識の間にある壁の正体
- TOEICを全否定せず、話す力を別に鍛えるための現実的な着地
1. 「高得点なのに話せない」は矛盾ではない
TOEIC(トーイック。英語を使う仕事の場面でどれだけ通用するかを測る、世界的に広く使われている試験のこと)で800点、900点を取った。それなのに海外拠点との会議で言葉が出てこない。外国人と雑談しようとして頭が真っ白になる。この落差にショックを受け、「自分の努力は無駄だったのか」「点数は嘘だったのか」と感じる人は多い。
しかし言語テストの研究を見ると、これは矛盾ではなく設計上ある程度当然の現象だと説明できる。ポイントになるのが、構成概念妥当性(こうせいがいねんだとうせい。物差しが本当に測りたいものを測れているか、という考え方)である。体温計で身長は測れない。物差しが違えば、測れるものも違う。これは特別な話ではなく、当たり前の理屈だ。
TOEICが測っているものと、「測れているはず」と思い込んでいるものにズレがある。このズレの正体は、大きく分けて2つある。1つは物差しそのものの設計、もう1つは知識を実際に使える形に変えるまでの練習の壁だ。1つずつ、研究的な裏付けとともに見ていく。
ここまでのまとめ: 高得点なのに話せないのは矛盾ではなく、テストという物差しの設計に関わる現象として研究的に説明できる。
2. TOEIC(L&R)は「聞く・読む」を測る物差しである

TOEICってそもそも話す力を測ってないんですか?

そうなんです。ある研究では、TOEICのリスニングとリーディングは別々の力として測られていて、話す力は分析対象にすら入っていません。
TOEICのうち、多くの人が受けているのはListening & Reading(L&R、聞く力と読む力を測る回)である。この回はもともと「話す・書く」という発信する力を測る作りにはなっていない。
この点を実証的に確かめた研究がある。日本人英語学習者569名分のデータを2つのグループに分けて分析した研究がある。リスニングとリーディングは「互いに関連しつつも別々の力として捉えるモデル」が、両グループで最もデータに合っていた。この分析はリスニングとリーディングという2つの受け取る力(受容的スキル。読む・聞くのように情報を頭に入れる力のこと)だけを対象にしており、話す・書くという発信する力(産出的スキル。頭の中の考えを言葉にして外に出す力のこと)はそもそも分析の対象にすら入っていない。
物差しに、最初から話す力を測る目盛りが付いていない。だから高得点でも話せないことがある、というのは自然な帰結になる。
リスニングとリーディングは、音や文字という形で外から入ってくる情報を受け取って処理する力である。一方でスピーキングは、頭の中にある考えを、自分で言葉として組み立てて外に出す力になる。情報の流れる向きがそもそも逆であり、同じ「英語力」という言葉でまとめてしまうと、この向きの違いが見えなくなってしまう。
なお、これは「TOEICの点数が下がった」という話とは別の現象である。点数の上下は測定のブレ幅の問題であり、詳しくはTOEICの点が下がった=実力が落ちた、ではないで扱われている。本記事が扱うのは点数の上下ではなく、点数が指し示す範囲そのものの話である。
ここまでのまとめ: TOEIC(L&R)はリスニングとリーディングという「受け取る力」を測る設計であり、話す力を測る目盛りはそもそも付いていない。
3. スコアと話す力の対応関係を実データで見る

でも聞く読むと話すって、多少は関係あるんですよね?

はい、中程度の関係です。ETSの調査では相関係数(2つの数字の連動度合い)が0.6前後で、身長と体重くらいの関係でした。
「測る目盛りがない」と言っても、聞く読むの力と話す力がまったく無関係というわけでもない。ここは実際のデータで確認する必要がある。
ETS(TOEICを開発する団体)が韓国の受験者4,935名分のデータを分析した公式の研究報告がある。聞く・読む・話す・書くの4技能のスコアを総当たりで比べたところ、相関係数(そうかんけいすう。2つの数字がどれだけ連動して動くかを0〜1で表す指標で、1に近いほど強く連動する)は、どの組み合わせも0.5〜0.7程度の「中程度」にとどまった。
この研究では、一方のスコアがもう一方の代わりとして使えると言えるかどうかの目安として、相関係数0.866という高い基準を採用している。しかし実際に出た数字は、聞く読むの合計点と話す点の相関でも0.628にとどまり、この基準には遠く届かなかった。研究の結論は「4技能は互いに関連はあるが別物であり、1つのスコアが別の技能の有効な代理にはならない」というものだった。
似た調査として、日本・韓国のTOEIC受験者に「日常の英語タスクがどれだけできるか」を自己評価してもらった研究もある。TOEIC(L&R)のスコアが高い人ほど「できる」と答える割合は高かったが、これは自己評価であり、実際に話す様子を評価したものではない。
身長と体重の関係を思い浮かべると分かりやすい。身長が高い人は体重も重い傾向があるが、身長だけで体重をピタリと当てることはできない。TOEICのスコアと話す力の関係も、これに近い強さだと言える。
同じ研究には、もう1つ興味深い結果がある。聞く読むのスコアが高い受験者ほど、その後にSpeakingを再受験したときのスコアの伸び幅が大きい傾向が見られたのだ。例えば初回Speakingが同じ点数だった受験者同士を比べると、聞く読むの合計点が高いグループの方が、次に受けたときの伸びが大きかった。これは、聞く読むの力が話す力の土台としてまったく無関係ではないことを示している。相関が中程度にとどまることと、土台として関係があることは、両立する話である。
ここまでのまとめ: TOEICの4技能スコアはどの組み合わせも中程度の相関にとどまり、聞く読むの点数から話す力を正確に言い当てることはできない。ただし聞く読むの力は、話す力が伸びる土台としては関係している。
4. 「知っている」と「とっさに使える」は別の壁がある

文法は知ってるのに、口からすぐ出てこないんです…

それは自動化(考えずに口から出る状態)がまだ進んでいないのかもしれません。自転車と同じで、乗れるまでには練習が要るんです。
物差しの設計だけが理由ではない。読者自身の頭の中にも、もう1つの壁がある。それが知識の自動化(じどうか。いちいち文法を頭で組み立てなくても、口からすっと出てくる状態になること)という考え方だ。
この理論では、英語を学ぶ最初の段階では、文法規則や単語の意味は「宣言的知識」(言葉で説明できる知識のこと)として頭に蓄えられる。そこから練習を繰り返すことで、少しずつ「手続き的知識」(意識して思い出さなくても実行できる知識のこと)に変わっていく。さらに繰り返すと、ほとんど負担なく使える「自動化」の段階に至るとされる。
自転車の乗り方を本で読んで「知っている」ことと、実際にペダルをこいで「乗れる」ことは別物だ。TOEICの読解・リスニング対策で身につくのは、多くの場合「知っている」段階の知識である。話すために必要な「自動化」まで進めるには、実際に声に出す練習が別に必要になる。
この理論の重要な点は、練習の「種類」が結果を左右するとしている部分にある。文法問題を黙って解く練習を繰り返しても、鍛えられるのは「解く」ための手続きであって、「話す」ための手続きではない。読解・リスニング中心のTOEIC対策と、話す練習とでは、そもそも自動化される中身が違う、という考え方になる。
TOEICの点数が800点前後で伸び悩む現象そのものは、別の記事で扱っている。そちらはTOEIC800点で止まった人へのとおり、処理の速さという観点から対策法を論じたものだ。本記事が扱うのは、点数が伸びているのに話せないという逆向きのギャップである。
また、頭では文法が分かっているのにとっさに文が組み立てられないという悩みもある。これは話そうとすると英文が組み立てられない本当の理由で詳しく扱われている。TOEICの高得点と組み合わさると、まさに本記事の悩みそのものになる。
ここまでのまとめ: 知識が「知っている」から「とっさに使える」に進むには自動化の過程が要る。読解・リスニング対策だけでは自動的には進まない。
5. 流暢さは、単語や文法の量とは別の力

単語はたくさん知ってるのに、なぜか詰まるんですよね。

単語の知識と、詰まらず話す流暢さは別物だという研究があります。話す速さは練習で伸びる部分が大きいんですよ。
話す力には、単語や文法の知識の量とは別に、詰まらず話し続けられるかという流暢さ(りゅうちょうさ。言葉に詰まらず、間を空けずに話し続けられる度合いのこと)という要素がある。
この点を確かめた研究がある。第二言語話者181名を対象に、8つの話す課題と、語彙・文法の知識テスト、言葉を答える速さのテスト、発音のテストを行った。話す速さの核となる「1音節あたりの発音時間」は、これらの知識・処理速度テストの成績である程度説明できた。しかし、話す途中の「間(ま)」の長さは、知識テストの成績とはあまり関係がなかった。
つまり、単語や文法のテストの点数が高くても、話すときに詰まらず口が動くかどうかは、あまり予測できないということになる。流暢さの向上には、実際に時間の制約がある中で声に出す練習が特に重要だと考えられている。読む・聞く中心の勉強だけでは、この部分は伸びにくい。
会議で発言を求められたときに固まってしまう感覚は、単語を知らないからというより、この「間」の部分でつまずいている可能性がある。頭の中では次に言うべき単語が浮かんでいても、それを声として出すタイミングが掴めない。知識のテストでは見えてこない種類のつまずきである。
ここまでのまとめ: 話す力には知識の量とは別に流暢さという要素があり、これは読む聞く中心の勉強だけでは十分に鍛えられない。
6. 勉強時間の使い方という、もっと現実的な理由

勉強時間の使い方も関係してるってことですか?

その通りです。テスト対策に時間を使うほど、話す練習に回せる時間が相対的に減るという構造が指摘されています。
理論的な壁だけでなく、もっと現実的な理由もある。テスト対策に使った時間の配分だ。
テストが学習行動に与える影響は波及効果(はきゅうこうか。テストで良い点を取るための対策が、日々の勉強のやり方そのものを変えてしまうこと)と呼ばれ、言語テスト研究で古くから検討されてきた。テスト対策に時間を割くほど、対策していない練習に回せる時間は相対的に減っていく。
TOEIC(L&R)は読む・聞く形式の出題なので、対策として読む・聞く練習に時間が集中しやすい。その分、話す練習に使える時間が削られていた可能性は十分にある。これは自動化の壁とは別の、単純な時間配分の問題である。
昇進や転職の条件としてTOEICのスコアが求められる職場は多い。スコアという分かりやすい数字がある以上、勉強時間がそちらに引っ張られるのは自然な行動でもある。悪いことをしているわけではなく、目の前の目標に合わせて時間を配分した結果、話す練習が後回しになっていた、というだけの話である。
ここまでのまとめ: テスト対策に時間を使うほど、対策の対象になっていない話す練習の時間が相対的に減るという構造がある。
7. TOEICは無意味ではない、話す力は別に鍛える
ここまでの話を「TOEICは意味がない」と受け取るのは早計である。読む・聞く力の指標としての意味は、研究データが示すとおり保たれている。問題は、その指標を話す力の証明としてそのまま使おうとしたことにある。
物差しの設計上の限界(構成概念妥当性の問題)と、知識を自動化する練習の不足。この2つの理由が重なると、「高得点なのに話せない」という現象は自然に起こる。原因が分かれば、次にやることも見えてくる。読む聞くの勉強を続けながら、話す練習は別のメニューとして意識的に積む。それだけで、点数と会話力のギャップは埋まり始める。
ここまでのまとめ: TOEICのスコアは読む聞く力の指標として意味を保っており、話す力は別のトレーニングとして意識的に積む必要がある。
よくある質問
Q1. TOEICの勉強はもう意味がないということですか?
A. そうではない。研究データでもTOEIC(L&R)は読む聞く力の指標として一定の意味を持つことが示されている。話す力の証明として直接使えない、という限定の話である。
Q2. TOEICのスコアと話す力の相関は、具体的にどれくらいですか?
A. ETSの公式分析では、聞く読むの合計スコアと話すスコアの相関係数は0.628だった。中程度の関係であり、片方から片方を正確に言い当てられるほどの強さではない。
Q3. なぜ知識があるのに、とっさに言葉が出てこないのですか?
A. 知識が「知っている」段階から「とっさに使える」段階に変わるには、自動化という練習を通じた過程が必要とされている。読む聞く中心の勉強だけでは、この過程が十分に進まないことがある。
Q4. 流暢に話せる人と話せない人の違いは、単語力の差ですか?
A. 単語力だけでは説明しきれない。話す速さの一部は知識テストの成績と関連するが、話す途中の間の長さは知識テストの成績とあまり関係がなかったと報告されている。
Q5. 高得点を取るための勉強が、話す力の邪魔になることはありますか?
A. 直接の邪魔というより、時間配分の問題として起こりうる。テスト対策に時間を割くほど、対策の対象外である話す練習の時間が相対的に減るという構造が指摘されている。
Q6. 話す力を伸ばすには、何を意識すればよいですか?
A. 読む聞くの勉強とは別に、実際に時間の制約がある中で声に出す練習を積むことが重要とされている。知識を増やす勉強と、使う練習は別物として扱うとよい。
まとめ
TOEICで高得点を取ったのに話せないという現象は、努力不足でも点数のごまかしでもない。TOEIC(L&R)はもともと聞く読むという受け取る力を測る物差しであり、話す力を測る目盛りは最初から付いていない。実際にスコア同士を比べた研究でも、聞く読むの点数と話す点数の関係は中程度にとどまる。
さらに、知識として「知っている」ことと、とっさに「使える」ことの間には自動化という壁がある。話す力には、流暢さという知識の量とは別の要素も関わる。テスト対策に時間を割くほど話す練習の時間が減るという、単純な時間配分の問題も重なる。
物差しが違う、知識と運用の間に壁がある、時間配分が偏りやすい。3つの理由が重なれば、高得点なのに話せないという現象は起こるべくして起こる。TOEICの勉強を続けながら、話す練習を別に積む。それが研究から見える、現実的な次の一歩である。
参考文献
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最終更新日: 2026-09-14
著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された8件の研究エビデンス(tier 1=6件、tier 2=2件)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より
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