- 留学しても英語を話せない人がいるのはなぜ?|伸びを決める本当の要因と国内での再現法
- この記事でわかること
- 留学で伸びる人と伸びない人がいる—研究が示す個人差の大きさ
- 伸びを一番よく予測するのは「現地での英語の使用量」
- 「誰と関わるか」が伸びを決める—社会ネットワークと留学効果
- 留学者は思ったより現地語で交流していない—Kinginger の観察
- 同じ環境でも伸びが違う心の仕組み—WTC(話しかけようとする気持ち)の働き
- 短期留学でも伸びる人はいる—期間より質の話
- 留学に行かなくても同じ成分は作れる—国内での再現策
- 今日から使える「留学の効く成分」チェックリスト
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 参考文献
- この記事を編集した人
留学しても英語を話せない人がいるのはなぜ?|伸びを決める本当の要因と国内での再現法

留学すれば英語は話せるって信じてたのに、話せず帰る人がいるって本当ですか?

気持ちはわかります。でも第二言語習得の研究では、留学の効果は平均でプラスでも、人による差がとても大きいと示されているんです。

差が大きいって、行き方が悪いとか、努力が足りないってことですか…?

多くの人がそう考えますが、根性の話ではありません。研究は「行ったかどうか」より別の要因が伸びを分けると繰り返し報告しています。

でも研究で分かると言われても、僕みたいな人間に再現できる気がしなくて…

実はそこが救いなんですよ。研究はこれを性格でなく「設計できる問題」として整理していて、やり方が見える化されています。

設計できるんですか。じゃあ、具体的に何から知ればいいんでしょう?

この記事では研究を順番に見て、伸びを決める本当の要因と、国内でも同じ成分を作る方法まで一緒に確認していきましょう。
結論: 第二言語習得(SLA)の研究では、留学の効果は平均するとプラスだが、人によって伸びの差が非常に大きいと示されている。伸びを最もよく予測するのは「留学に行ったかどうか」ではなく、現地で英語を実際に使った量と、現地の英語話者との人間関係の強さだと報告されている。この「効く成分」は国内でも意図的に作り出せる。
「3ヶ月も留学したのに、ほとんど話せないまま帰ってきた」。そんな声はSNSでよく見かける。留学への憧れと、その体験談への不安が同居している人は多い。
この悩みに対して、多くの記事は「もっと話しかけよう」「日本人と群れるな」という精神論で答える。しかしその根拠は個人の体験談にとどまることが多い。
ここでは、留学否定でも根性論でもなく、第二言語習得の研究データをもとに「なぜ伸びる人と伸びない人がいるのか」を解き明かす。
この記事でわかること
- 留学の効果は「平均ではプラス、でも個人差が非常に大きい」と研究が示す事実
- 伸びを決める本当の要因(現地での英語の使用量・人間関係・話そうとする気持ち)
- 「留学の効く成分」は国内でも意図的に作り出せるという希望のある結論
- 今日から使える具体的なチェックリスト(留学予定の有無を問わず使える)
留学で伸びる人と伸びない人がいる—研究が示す個人差の大きさ

同じ留学なのに、なんでそんなに結果が変わるんですか?

Segalowitz & Freed(2004)というスペイン語学習者の研究では、留学組の伸びの分散(=データの散らばり具合)がとても大きかったんです。
留学の効果を語るとき、まず知っておきたい事実がある。「平均するとプラス、でも人による差がとても大きい」ということだ。
Segalowitz & Freed(2004)は、スペイン語学習者を留学組と国内学習組に分け、口頭の流暢さの伸びを1学期間追いかけた原典研究だ。
その結果、留学組は発話速度などで平均的な改善を見せた。しかし個人間のばらつき(=分散、データの散らばり具合のこと)が非常に大きかったと報告されている。
つまり「留学=自動的に話せる」ではなく「同じ留学でも結果はバラバラ」が研究の正直な答えなのだ。
これは同じジムに入会しても、毎日本気で通う人と行くだけの人では体の変わり方が全然違うのと似ている。場所より中身が結果を決める。
Kinginger(2008)は、フランス留学中のアメリカ人学生を日誌やインタビューで細かく観察した質的研究だ。ここでも、同じフランスにいながら伸びる学生と全く伸びない学生が共存していた。
さらにKinginger(2009)は、数十年分の留学研究を批判的に見直した総括書で、多くの研究で個人差が非常に大きいと整理している。
ここまでのまとめ: 留学の効果は平均ではプラスだが、伸びの個人差は非常に大きく、「行けば話せる」は研究データと合わない。
伸びを一番よく予測するのは「現地での英語の使用量」

じゃあ結局、何が伸びる人と伸びない人を分けるんですか?

Segalowitz & Freed(2004)で伸びと深く関わったのは、教室外L2接触量(=授業以外で英語に触れて使った時間)でした。
では、何が伸びる人と伸びない人を分けるのか。研究がまず指し示すのは「現地でどれだけ英語を使ったか」だ。
Segalowitz & Freed(2004)の分析で伸びと深く関わっていたのは、教室の外で実際に英語でやり取りした時間だった。これは教室外L2接触量(=授業以外で目標の言語に触れて使った時間のこと)と呼ばれる。
ただし研究は、接触量の「多さ」だけでは伸びを十分に説明しきれず、「接触の中身の質」も重要だと示唆している。
Dewey et al.(2012)は、6つの留学プログラムの学習者を調べ、母語と目標言語の使用時間の比率が伸びの重要な予測因子だと示した。
同じ留学期間でも、目標言語を話す時間が週3時間の人と週30時間の人では、積み上がる練習量が10倍違う。接触量の差がそのまま成長の差になる。
海外に住んでいても、いつも日本語で話せる仲間と一緒にいては英語は伸びにくい。英語を使う時間そのものが成長の燃料なのだ。
ここまでのまとめ: 伸びを最もよく予測するのは留学の有無ではなく、現地で英語を実際に使った量とその中身の質だと報告されている。
「誰と関わるか」が伸びを決める—社会ネットワークと留学効果

英語を使う時間って、結局は運とか本人の性格の問題じゃないんですか?

Baker-Smemoe et al.(2014)では、社会ネットワーク(=現地でつながる人間関係の網)の広さと深さが伸びを有意に予測しました。
英語を使う量を左右するのは、実は「現地で誰と関わるか」という人間関係だ。研究はここに強い予測力を見つけている。
Baker-Smemoe et al.(2014)は、複数の国に留学した大学生102名を対象に、伸びを予測する要因を多変量分析で調べた。多変量分析とは、複数の原因を同時に比べて本当に効くものを見つける手法のことだ。
その結果、伸びた学生は伸びなかった学生より、社会ネットワークの「分散度」と「強度」が有意に高かった。
社会ネットワークとは、その人が現地でつながっている人間関係の網のことだ。分散度は「いろいろな集団と広くつながっているか」、強度は「感情的にどれだけ近いか」を指す。
これは野球が上手くなりたければ、自分より少し上手い人たちとよく練習するのと似ている。現地の英語話者と深く関わった学生ほど伸びが加速した。
Isabelli-García(2006)のケース研究も、良い人間関係を築けた学習者ほど練習機会が多く習得が加速したと記述している。
逆に、家族との接触がほぼゼロの「下宿人扱い」のホームステイに置かれた学習者は、会話機会も伸びも低くなったと報告されている。
現地に行っても日本人グループで固まってしまえば、英語を使う機会は激減する。留学の成否は「誰と関わる環境に身を置くか」で大きく変わる。
ここまでのまとめ: 現地の英語話者との人間関係の広さと深さが伸びを有意に予測し、母語グループに閉じると接触機会が激減すると示されている。
留学者は思ったより現地語で交流していない—Kinginger の観察
「現地に行けば自然と英語漬けになる」というイメージは、実は研究と食い違っている。
Kinginger(2008)がフランス留学中のアメリカ人学生を細かく観察したところ、多くの学生が想定より現地語での交流が少なかった。
彼らは留学先でも英語話者同士(アメリカ人グループ)のコミュニティに閉じており、フランス語話者との実際のやり取りは大幅に少なかったと記録されている。
つまり留学中でも、意識して行動しなければ母語の世界に引きこもることが普通に起きるのだ。
これは海外赴任でも、職場の日本人仲間と日本語で完結してしまうビジネスマンと同じ構図だと言える。
さらにこの研究は、学習者の主体性(=自分から動こうとする姿勢のこと)や個人的な学習目標の違いが、言語の伸びの差を生む主な要因だと浮かび上がらせた。
環境が同じでも、そこで何をするかは学習者しだい。留学は「英語を使う機会が置いてある場所」に過ぎず、その機会を拾うかどうかが分かれ道になる。
ここまでのまとめ: 留学中でも意識せねば母語コミュニティに閉じるのが普通で、現地語との交流は想定より少ないと質的研究が記録している。
同じ環境でも伸びが違う心の仕組み—WTC(話しかけようとする気持ち)の働き

WTCって言葉、さっきから出てきますけど何のことですか?

WTC(=今この相手に自分から英語で話しかけようとする気持ち)です。MacIntyre et al.(1998)がこれを語学力とは別の要因だと理論化しました。
同じ留学環境にいても接触量に差が出るのはなぜか。その鍵を握る心の仕組みが「WTC」だ。
MacIntyre et al.(1998)は、WTC(willingness to communicate)を理論化したモデルの原典だ。WTCとは、今この相手に自分から英語で話しかけようとする気持ちのことを指す。
この研究は、WTCが純粋な語学力とは別の変数だと説明する。高い実力を持ちながら話すのを避ける人と、実力は低くても積極的に話す人が共存するのだ。
同じ留学環境・同じ授業でも、WTCの高い人はチャンスがあれば話しかけ、低い人は黙ってしまう。その差が接触量の差になり、最終的な伸びの差につながる。
これは同じクラスで同じ先生に教わっても、積極的に手を挙げる人のほうが実力が伸びやすいのと同じ仕組みだ。
MacIntyre & Charos(1996)は、この考えを実証した先行研究だ。WTCが高い学習者は、実際に多く英語でやり取りする行動を示すと報告している。
同じ運動会でも、声を出して動き回る子と隅にいる子では経験の量が違う。WTCが高い人ほど英語を使う場面で動き、それが積み重なって上達の差になる。
大切なのは、WTCは生まれつきの性格ではなく訓練できるという点だ。不安を下げ、小さな成功体験を積み、少しずつチャレンジを上げれば接触量が増える。
ここまでのまとめ: WTC(話そうとする気持ち)が実際の英語使用量を左右し、同じ環境でも伸びに差を生むが、これは訓練で高められる。
短期留学でも伸びる人はいる—期間より質の話

僕は3ヶ月しか行けないんですが、それじゃ短すぎて意味ないですよね…?

そうとも限りません。Llanes & Muñoz(2009)は3〜4週間の短期でも多くの指標で有意な伸びが出たと実証しています。
「3ヶ月では短すぎたのでは」と考える人は多い。しかし研究は、問題は期間そのものより中身だと示している。
Llanes & Muñoz(2009)は、3〜4週間の短期留学の前後で口頭の流暢さやリスニング力を測った。
その結果、短期滞在でもほとんどの指標で統計的に有意な改善が見られ、短期でも一定の効果があると実証された。
ただし伸びには個人差が大きく、短期でも大きく伸びる人と、ほとんど変わらない人がいたと報告されている。
これは3週間の集中キャンプでも、ちゃんと練習すればスポーツの腕は確かに上がるのと同じだ。短期でも中身しだいで成果は出る。
DeKeyser(2007)は、留学を「実践練習の場」として整理し、練習の質と量が習得を決めると論じた。
ここでいう自動化(automatization、=自転車のように考えなくてもスイスイ使える状態のこと)が上達の鍵になる。これは意味のある会話練習を大量に積むほど進むとされる。
だから「3ヶ月行ったのに伸びなかった」のは期間の問題ではなく、その3ヶ月に詰め込んだ練習の量と質の問題だった可能性が高い。
同じ3ヶ月のジム通いでも、メニューなしで何となく来た人と、コーチについて計画的に鍛えた人では成果が違うのと同じ理屈だ。
ここまでのまとめ: 短期留学でも有意な伸びは出るが個人差が大きく、鍵は期間より、その期間に積んだ練習の量と質だと示されている。
留学に行かなくても同じ成分は作れる—国内での再現策

正直、費用も仕事もあって留学は難しくて…行けない人はもう諦めるしかないんですか?

諦めなくて大丈夫です。Freed et al.(2004)では国内の集中イマージョン組が留学組を上回る伸びを示しました。
ここまでで見えてくるのは希望のある事実だ。留学の「効く成分」は、留学という場所に固有のものではない。
Freed et al.(2004)は、通常授業・海外留学・国内集中イマージョンの3つを比較した実験研究だ。イマージョンとは、目標言語だけに集中してどっぷり浸かる学習環境のことを指す。
その結果、国内の集中イマージョン組(7週間)が発話語数や発話速度などすべての指標で最大の伸びを示し、留学組を上回った。
イマージョン組は教室外でも積極的に目標言語を使い、接触時間が最も多かった。それが高い伸びと関連していた。
これは海外の野球チームに入るより、国内でプロコーチと毎日みっちり練習した選手のほうが伸びた、というイメージに近い。環境より練習の濃さが決め手だ。
Taguchi et al.(2009)も、動機の高い国内学習者は留学者と同程度の接触量を達成できると示した。やる気が方略を動かし、接触量を増やすからだ。
留学の効く成分とは「意味のある英語のやり取りを大量に積むこと」だと、複数の研究が指し示す。この成分は国内でも意図的に設計できる。
具体策は身近にある。オンライン英会話、英会話サークル、語学交換(お互いの言語を教え合う相手を作ること)、外国人と働くコミュニティへの参加などだ。
ここまでのまとめ: 国内集中イマージョンが留学に匹敵する伸びを示した研究があり、留学の効く成分は国内でも意図的に再現できると報告されている。
今日から使える「留学の効く成分」チェックリスト
研究から導かれた要因を、今日からの行動に落とし込む。これは留学予定の有無を問わず、誰でも使える共通ガイドだ。
1つ目は、英語で会話した時間を意識的に記録し、増やすこと。接触量の最大化が伸びの燃料になると複数の研究が示している。
2つ目は、英語ネイティブや上級者との人間関係を一つ作ること。社会ネットワークの強さが伸びを予測すると報告されている。
3つ目は、「うまく言えないから黙る」をやめて、伝えようとする一歩を踏み出すこと。WTCは訓練でき、それが接触量を増やす。
これは、下手でもいいから毎回バッターボックスに立つ回数を増やすようなものだ。打席に立たなければヒットは生まれない。
4つ目は、留学を検討しているなら、現地でどんな英語話者コミュニティに入るかを事前に設計すること。誰と関わるかが成否を分ける。
そして5つ目に、ある程度の基礎力を国内で作ってから現地に臨むこと。基礎がある学習者ほど現地での交流を活用できると示されている。
留学は「話せるようになる魔法」ではなく、意味のある練習量を確保するための場だ。だからその成分を自分で設計すれば、行けなくても道は開ける。
ここまでのまとめ: 接触量・人間関係・WTC・事前設計・基礎力という研究由来の5つの要因を意識すれば、留学の有無に関わらず伸びを設計できる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 留学は結局、意味がないのですか?
いいえ。留学の平均効果はプラスだと実証されている。ただし伸びは行くこと自体でなく、現地での英語使用量と人間関係で決まると報告されている。
Q2. 日本人と一緒にいると本当に伸びないのですか?
研究では、母語コミュニティに閉じると英語の接触機会が激減すると示されている。日本語をやめる必要はないが、英語を使う時間を意識的に確保することが大切だ。
Q3. 短期留学でも効果はありますか?
はい。3〜4週間の短期でも有意な伸びが出ると実証されている。ただし個人差が大きく、期間より接触量の質と量が結果を左右する。
Q4. 人見知りでも英語は伸ばせますか?
伸ばせる。話そうとする気持ち(WTC)は生まれつきでなく訓練できると示されている。不安を下げ、小さな成功を積むことで接触量を増やせる。
Q5. 留学に行けなくても英語は話せるようになりますか?
なる。国内集中イマージョンが留学に匹敵する伸びを示した研究がある。留学の効く成分は国内でも設計できると報告されている。
まとめ
「留学したのに話せない」という悩みは、根性不足のせいではない。第二言語習得の研究は、伸びを決めるのは留学という場所ではなく、そこで積んだ英語のやり取りの量と質だと示している。
現地での英語使用量、現地の英語話者との人間関係、そして話そうとする気持ち(WTC)。この3つが伸びる人と伸びない人を分ける本当の要因だ。
そして最も希望のあるメッセージは、これらの効く成分が国内でも意図的に作り出せるということだ。留学に行けなくても、挫折した経験があっても、道は閉じていない。
今日から接触量を記録し、英語で話せる相手を一人作り、下手でも話しかける一歩を踏み出す。研究が指し示す道は、意外なほどシンプルだ。
参考文献
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- Freed, B. F., Segalowitz, N., & Dewey, D. P. (2004). Context of learning and second language fluency in French: Comparing regular classroom, study abroad, and intensive domestic immersion programs. Studies in Second Language Acquisition, 26(2), 275-301. https://www.cambridge.org/core/journals/studies-in-second-language-acquisition/article/context-of-learning-and-second-language-fluency-in-french-comparing-regular-classroom-study-abroad-and-intensive-domestic-immersion-programs/9951FAC1116B5300B0173912BA2FE1CD
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最終更新日: 2026-08-16
著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された12件の研究エビデンス(tier 1=A / tier 2=B)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より
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