単語帳を何周しても覚えられない人へ|記憶力ではなく「覚え方」を変えれば残る

英語を学ぶ大人の男性と、リングでとじた単語カードが左右に並び、単語を思い出して覚えるようすを表したイラスト 語彙・単語

単語帳を何周しても覚えられない人へ|記憶力ではなく「覚え方」を変えれば残る

英語学び直したいユーイチ
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単語帳を何周もしてるのに覚えられなくて。僕、記憶力が悪いんですかね…

英語独学好きの助教S
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気持ちはよくわかります。ただ記憶研究では、覚えられない原因は記憶力よりも「覚え方」の側にあると繰り返し示されているんですよ。

英語学び直したいユーイチ
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でも毎日コツコツ続けてるのに残らないんです。もう努力が虚しくて…

英語独学好きの助教S
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多くの人が同じ壁にぶつかります。この分野の研究は、努力の量ではなく向きの問題として、残らない理由を丁寧に解いてきました。

英語学び直したいユーイチ
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覚え方が問題って言われても、じゃあどう変えればいいのか分からなくて…

英語独学好きの助教S
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そこが救いなんです。記憶研究は「どう変えれば残るか」を設計の問題として整理していて、打つ手がちゃんと見えてきます。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

研究にもとづくなら安心ですけど、まず何から知ればいいんですか?

英語独学好きの助教S
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この記事では世界の記憶研究を順番にたどって、なぜ残らないのか、どう変えれば残るのかを一緒に確認していきましょう。

結論: 単語帳を何周もしたのに覚えられないのは、記憶力が悪いからではない。悪いのは「覚え方」だ。多くの人がやる「答えを見て、なぞって、また見る」やり方(=再学習=もう一度見直すこと)は、世界の記憶研究でいちばん残りにくいと分かっている。反対に「答えを隠して、思い出そうとする」練習(=想起練習=自力で引き出すこと)に変えるだけで、同じ時間でも長く残ることが実験でくり返し示されている。思い出すこと自体が記憶を強くするこの現象を、テスト効果(=思い出す練習をすると記憶が残りやすくなること)と呼ぶ。記憶力を疑う必要はない。

「単語帳を何周も回した。ノートに何回も書き写した。それなのに翌週には半分も残っていない」。

そう感じて、「自分はもともと記憶力が悪いんだ」と自分を責めていないだろうか。毎日コツコツ続けているのに残らないと、努力そのものが虚しくなってくる。

だが、記憶研究の結論はこうだ。問題はあなたの頭ではなく、やり方の方にある。多くの記事は「反復が大事」「毎日コツコツ」と精神論で終わるが、ここでは世界の研究にもとづいて、なぜ残らないのか、どう変えれば残るのかを冷静に見ていく。

この記事でわかること

  • 「何周しても覚えられない」のは記憶力ではなく「覚え方」の問題だという事実
  • 「見て覚える」より「思い出して覚える」方が残る、テスト効果という現象
  • 英単語ペアの有名な実験が示す「思い出す練習だけが記憶を残す」という結果
  • 単語帳・アプリを「隠して思い出す」に変える、今日からできる具体的な手順

「何周しても覚えられない」のは記憶力のせいじゃない—悪いのは覚え方

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

何周やっても覚えられないのは、やっぱり僕の頭が悪いからですよね?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

違うんです。記憶研究では「見て・なぞって・また見る」という再学習が、いちばん残りにくいやり方だと分かっています。頭ではなく方法の問題なんですよ。

まず、いちばん大事な安心を先に渡したい。単語が覚えられないのは、あなたの記憶力が悪いからではない。

多くの人がやっているのは「答えを見て、なぞって、また見る」という覚え方だ。これを再学習(=一度覚えたものをもう一度見直すこと)と呼ぶ。じつはこれが、記憶研究の世界ではいちばん残りにくいやり方だと分かっている。

つまり、覚えられないのは頭が悪いからではなく、残りにくい方法を全力でくり返しているからだ。努力の量ではなく、努力の向きの問題なのだ。

この感覚は、穴のあいたバケツに似ている。何度水をくんでも溜まらないのは、あなたの力不足ではなく、バケツの形の問題だ。汲む回数を増やしても、穴をふさがなければ溜まらない。

そして、この「穴をふさぐ」にあたる覚え方が、次の章で説明する「思い出す練習」だ。同じ努力を、残る形に入れ替えるだけでいい。

ここまでのまとめ: 覚えられないのは記憶力ではなく覚え方の問題。「見て・なぞって・また見る」という再学習は残りにくいと分かっている。頭を疑う前に、やり方を疑えばいい。

「見て覚える」より「思い出して覚える」—テスト効果とは何か

英語学び直したいユーイチ
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でも見直した方が、その場ではちゃんと覚えた気がするんですよ。

英語独学好きの助教S
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その手ごたえが落とし穴なんです。ある研究では、直後は見直した方が良くても、一週間後は思い出す練習をした方がはっきり高く残りました。

では、何が記憶を残す本体なのか。答えは「見直す」ことではなく「思い出す」ことだ。

思い出すテストをすること自体が記憶を強くする現象を、テスト効果(=思い出す練習をすると記憶が残りやすくなること)と呼ぶ。テストは「覚えたか確かめる道具」だと思われがちだが、じつはテストそのものが「覚えるための練習」になる。

この現象を示した中心的な研究者に、Roediger と Karpicke(=2006年にテスト効果を実証した研究者ペア)がいる。

その研究では、文章を何度も読み直した群と、一度読んで思い出す練習をした群を比べた。覚えた直後は読み直した群の方が成績が良かったが、一週間後には思い出す練習をした群の方がはっきり高かった。

しかも時間がたつほど、その差は広がった。短い時間での手ごたえと、長く残る実力が、逆になっていたのだ。

これは筋トレに似ている。筋肉がつくのは重りを眺めた時ではなく、実際に持ち上げた時だ。思い出すという動作は、いわば記憶を持ち上げる運動なのだ。

だから「見直すとラクで覚えた気がする」のに残らず、「思い出すのは少し面倒」なのに残る。この逆転こそが、覚え方を変えるべき理由になる。

ここまでのまとめ: 記憶を残す本体は「見直す」ではなく「思い出す」方だ。思い出すこと自体が記憶を強くするテスト効果があり、時間がたつほど、思い出す練習をした人の方が残る。

英単語で直接実証—スワヒリ語ペアの有名な実験

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

それって文章の話ですよね?英単語の暗記にも本当に効くんですか?

英語独学好きの助教S
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効きます。英語とスワヒリ語の単語ペアを使った実験でも、思い出す練習を続けた群だけが一週間後の記憶をはっきり残したんですよ。

「それは文章の話で、単語には効かないのでは」。そう思うかもしれない。だが、まさに英単語のような暗記で実証した研究がある。

この2人(2008年の研究では Karpicke と Roediger の順で発表)は、英語とスワヒリ語の単語ペア(例: mashua=boat)を覚える実験も行った。日本人が英単語を覚えるのと、ほぼ同じ形の課題だ。

この実験では、一度正解できた単語をその後も思い出す練習に含めた群と、見直しだけに切り替えた群を比べた。結果、思い出す練習を続けた群の方が、一週間後の成績がはるかに高かった。

反対に、一度覚えた単語をくり返し見直すことは、一週間後の記憶にほとんど寄与しなかった。「もう覚えたから見直すだけ」では、記憶はほとんど強くならなかったのだ。

これは、人の名前を覚える場面に似ている。一度会った人の名前を、名簿を見返して確認するより、顔を見て自力で名前を言おうとする方が覚える。見返すのはラクだが、残らないのだ。

この研究が大事なのは、英単語のような「単語ペア暗記」でこそ思い出す練習が直接効くと示した点だ。文章の話ではなく、あなたの単語帳にそのまま当てはまる、いちばん近い証拠になる。

同じ方向は、外国語の単語学習に直接あてはめた研究でも確認されている。研究者 Barcroft(=外国語の語彙学習に想起を応用した研究者)だ。

その研究では、覚えている最中にあえて単語を隠して思い出させた学習者の方が、ただ見て覚え続けた学習者より、後のテストで多くの単語を覚えていた。

ここまでのまとめ: 英語とスワヒリ語のペアを使った実験で、思い出す練習だけが一週間後の記憶を残した。見直しはほとんど効かなかった。英単語暗記に直結する、いちばん近い証拠だ。

「見ると覚えた気がする」の正体—流暢性の錯覚と望ましい困難

ここで一つの疑問が残る。思い出す方が残るなら、なぜ多くの人は「見て覚える」をやめられないのか。

理由は、答えを見るとスラスラ読めて「もう覚えた」と感じるからだ。この感覚を流暢性の錯覚(=スラスラ読めると身についたと勘違いすること)と呼ぶ。読めることと、覚えていることは、じつは別なのだ。

反対に、思い出そうとして「あれ、何だっけ」と少し詰まる方が、じつは記憶に残る。この「少しだけ難しい方が残る」ことを望ましい困難(=わざと少し思い出しにくくすると定着が良くなること)と呼ぶ。

この考え方を提唱したのが、研究者 Bjork(=望ましい困難の枠組みを示した記憶研究者)だ。ラクに感じる学習ほど残らず、少し苦しい学習ほど残ると論じた。

これは坂道に似ている。下り坂を歩いても脚はあまり鍛えられないが、少しの上り坂で息が上がる方が体力がつく。ラクさは、成長の合図ではないのだ。

さらに、この「少しの困難」を数値で検証した研究もある。研究者 Pyc と Rawson(=2009年に想起の努力と記憶の関係を調べた研究者ペア)だ。

その研究では、間隔を広げて「少し忘れかけた状態から思い出す」練習の方が、ラクに思い出せる練習より後の記憶が良くなった。ただし失敗ばかりでは意味がなく、「がんばれば思い出せる」ちょうどよい難しさが効いた。

軽く思い出せた時より、がんばって思い出した時の方が、記憶の跡が濃く残る。ラクさに安心せず、少し詰まるくらいを保つのがコツだ。

ここまでのまとめ: 見るとスラスラ読めて「覚えた気」になるのは流暢性の錯覚。実際には残っていない。少し詰まるくらいの「望ましい困難」がある方が、記憶はむしろ残る。

「選ぶ」より「自分で出す」が強い—産出的想起と作り出す効果

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

4択アプリでちゃんと正解できてるんです。これなら覚えたって言えますよね?

英語独学好きの助教S
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まだ油断は禁物なんです。作り出す効果の研究では、与えられた答えを読むより、自分で作り出した答えの方が記憶に残ると示されています。

同じ「思い出す」でも、じつは強さに差がある。ここを分けて考えると、アプリ学習の落とし穴が見えてくる。

選択肢から正解を選ぶことを認識(=並んだ答えの中から見分けること)と呼ぶ。一方、何も見ずに自力で答えを口に出す・書くことを産出的想起(=自分で作り出して思い出すこと)と呼ぶ。この二つでは、後者の方が記憶に残る。

自分で答えを作り出す方が覚えやすいことを、作り出す効果(=generation effect=与えられた答えより自力で出した答えの方が残ること)と呼ぶ。これを示したのが、研究者 Slamecka と Graf(=1978年に作り出す効果を実証した研究者ペア)だ。

その一連の実験では、与えられた答えをただ読んだ語より、自分で答えを作り出した語の方が、後の記憶に残った。

これは料理に似ている。レシピを目で追うより、何も見ずに自分で手順を思い出して作る方が、体で覚える。受け取るより、生み出す方が残るのだ。

だから、4択アプリで正解を選べても、まだ安心はできない。選ぶのは認識であって、自力で出したわけではないからだ。何も見ずに意味やつづりを自分で出せて、初めて「残る練習」になる。

この「自力で出す形の方が効く」傾向は、たくさんの研究をまとめた分析でも報告されている。研究者 Adesope ら(=2017年に練習テストの効果を統合したメタ分析)だ。ここで言うメタ分析とは、多くの研究を合算して全体の傾向を見る手法のことだ。

その分析では、選択肢から選ぶ形式より、何も見ずに自力で答えを書く・言う形式の方が、効果が大きい傾向が示された。一つの体験談ではなく、研究群全体を合算しても同じ方向だったのだ。

ここまでのまとめ: 同じ思い出すでも、選ぶ(認識)より自力で出す(産出的想起)方が強い。これが作り出す効果だ。4択で選べても、自分で意味やつづりを出せて初めて残る練習になる。

思い出す×間隔をあける—組み合わせが最強という研究

英語学び直したいユーイチ
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覚えた直後にもう一回やった方が、忘れなくて良さそうですけど?

英語独学好きの助教S
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それが逆なんです。多くの実験をまとめた分析では、少し時間をあけて分けて覚える方が、後日の記憶がほぼ一貫して高くなると示されました。

思い出す練習は、それだけでも効く。だが「いつやるか」と組み合わせると、さらに効きが重なる。

覚えた直後にくり返すより、少し時間をあけてから思い出す方が定着する。この「時間をあけて分けて覚える」ことを分散学習(=間隔をあけて復習すること)と呼ぶ。

この効果を、多数の実験を統合して示したのが、研究者 Cepeda ら(=2006年に間隔の効果をまとめたメタ分析)だ。たくさんの言葉を覚える実験を合算し、全体の傾向を確かめた研究だ。

その分析では、一度にまとめて覚えるより、時間をあけて分けて覚える方が、後日の保持がほぼ一貫して高くなると示された。しかも遠い将来まで覚えていたいほど、最適な間隔も広がると整理された。

間隔をあけると、記憶は一度忘れかける。だが、その状態から思い出す方が、むしろ記憶が強くなる。

これは、消えかけた線をなぞり直す感覚に近い。まだ濃い線をなぞってもあまり変わらないが、消えかけた線をなぞり直すと、跡がくっきり残る。少し忘れた頃に思い出すのが効くのは、そのためだ。

この記事の主軸は「どう覚えるか=思い出す」だが、「いつ思い出すか=間隔をあける」を足すと、二つの効果が重なる。思い出す練習に、少しの間隔を組み合わせるだけでいい。

ここまでのまとめ: 覚えた直後より、少し時間をあけてから思い出す方が残る。間隔をあけて一度忘れかけた状態から思い出すと、記憶はむしろ強くなる。想起と間隔を足すと効果が重なる。

手間をかけるより思い出す—「きれいなノート」の落とし穴

「思い出すのが効くのは分かった。でも、じっくり丁寧に勉強する方が身につくのでは」。そう感じる人もいるだろう。だが、ここにも研究の答えがある。

手の込んだ勉強法として、内容を図にまとめる学び方がある。これを概念地図づくり(=関係を図にして整理する学び方)と呼ぶ。時間も手間もかかる、一見きちんとした方法だ。

この方法と、思い出す練習を直接比べたのが、先ほどの Karpicke と、研究者 Blunt(=概念地図と想起練習を比較した研究者)だ。

その研究では、時間と手間をかけて図にまとめた群より、何も見ずに思い出す練習をした群の方が、後日のテストで成績が高かった。

しかも学習中は、多くの人が「図にまとめる方が身につくはず」と予想していた。予想と実際の効果が、逆になっていたのだ。ここでもラクさや丁寧さの手ごたえは、当てにならなかった。

これは、きれいなノートを作ることに似ている。整ったノートを作ると勉強した気になるが、何も見ずに思い出す方が、じつは身につく。手間の量ではなく、思い出す動作そのものが効くのだ。

この結果が示すのは、時間や手間を増やすより、同じ時間の中身を「思い出す」に入れ替える方が効くということだ。忙しい社会人にとって、これはむしろ朗報になる。

ここまでのまとめ: 時間をかけて図にまとめるより、何も見ずに思い出す練習の方が成績が高かった。効くのは手間の量ではなく、思い出す動作そのもの。同じ時間の中身を変えればいい。

今日からできる—単語帳・アプリを「思い出す練習」に変える手順

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

理屈は分かってきました。でも、明日から具体的に何をすればいいんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

勉強時間は増やさなくて大丈夫です。研究が示すのは、同じ時間の中身を「見る」から「隠して思い出す」に入れ替えるだけでいい、ということなんですよ。

ここまでの研究を、具体的な行動に落とし込もう。やることはシンプルで、勉強時間を増やす必要はない。同じ時間の中身を「見る」から「思い出す」に入れ替えるだけだ。

(1) 単語帳は「見る」のをやめ、答えを隠して先に思い出す。 手やカードで意味の側を隠し、まず自力で思い出してから答え合わせをする。見てから覚えるのではなく、思い出してから確認する順番に変える。

(2) アプリの4択は、選ぶ前に自力で出す。 選択肢を見て選ぶのは認識にすぎない。選ぶ前に、何も見ずに意味やつづりを自分で口に出す・書く。自分で作り出すこの一手間が、記憶を残す。

(3) スラスラ言えても油断せず、少し詰まるくらいの負荷を保つ。 ラクに思い出せる状態は流暢性の錯覚が起きやすい。「がんばれば思い出せる」ちょうどよい難しさを保つのがコツだ。

(4) 覚えた直後にくり返すより、少し時間をあけて思い出す。 その場で連続して見直すのではなく、翌日や数日後にもう一度、何も見ずに思い出す。一度忘れかけてから思い出す方が残る。

(5) 数える基準を「何周見たか」から「何回自力で思い出せたか」に変える。 周回数は残りにくい再学習の量にすぎない。自力で思い出せた回数こそが、定着を左右する目安になる。

この「回数の基準を変える」ことは、外国語の単語学習に直接あてはめた研究でも裏づけられている。研究者 Nakata(=L2語彙の反復想起を調べた研究者)だ。同じ学習時間でも、自力で思い出した回数が多いほど、後の単語の保持が高くなる傾向が示された。

そして、これらの効果は実験室だけの話ではない。テスト効果や想起練習の研究を横断的にまとめた総説でも、思い出す練習は単純な単語だけでなく、実際の勉強でも効くと整理されている。研究者 Roediger と Butler(=想起練習の研究を総括したレビュー)だ。日々の単語学習にそのまま応用してよいのだ。

ここまでのまとめ: やることは、勉強時間を増やすことではない。同じ時間の中身を「見る」から「隠して思い出す」に入れ替えるだけ。数える基準も「何周見たか」から「何回思い出せたか」に変える。

よくある質問(FAQ)

Q1. 単語帳を何回も書き写しているのに覚えられません。記憶力が悪いのでしょうか?
記憶力ではなく覚え方の問題です。書いて「見直す」のは残りにくく、答えを隠して先に「思い出す」練習に変えると、同じ時間でも長く残ると示されています(テスト効果)。

Q2. 「見て覚える」と「思い出して覚える」で、そんなに差が出るのですか?
出ます。英語とスワヒリ語のペアを使った実験では、思い出す練習をした群だけが一週間後の記憶を残し、見直しだけの群はほとんど効きませんでした。

Q3. 答えを見るとスラスラ読めるのに、なぜ後で思い出せないのですか?
見るとスラスラ読めて「覚えた気」になるのは流暢性の錯覚で、実際の記憶とはズレています。少し詰まるくらい思い出しにくい方が、むしろ残ります(望ましい困難)。

Q4. 4択の単語アプリで正解できれば、覚えたと考えていいですか?
まだ安心はできません。選択肢から選ぶ(認識)より、何も見ずに自力で答えを出す(産出的想起)方が強く残ります。選ぶ前に自分で意味を出すのがコツです。

Q5. 復習はいつやるのが効きますか?
覚えた直後より、少し時間をあけてから思い出す方が定着します。想起と間隔をあけることの併用が効くと、多くの研究をまとめた分析が示しています。

まとめ

単語帳を何周もしたのに覚えられないのは、記憶力が悪いからではない。悪いのは「覚え方」だ。これが、この記事のいちばん大事な結論だ。

多くの人がやる「見て・なぞって・また見る」という再学習は、記憶に残りにくいと分かっている。反対に「答えを隠して思い出す」練習に変えるだけで、同じ時間でも長く残ると、くり返し示されている。

見るとスラスラ読めて「覚えた気」になるのは流暢性の錯覚で、少し詰まる方がむしろ残る。選ぶより自力で出す方が強く、間隔を足せばさらに効く。時間や手間を増やすより、思い出す動作そのものが効くのだ。

だから、記憶力を疑う必要はない。やることは、勉強時間を増やすことではなく、同じ時間の中身を「見る」から「思い出す」に入れ替えるだけだ。

単語帳を隠して、思い出してから答え合わせをする。そのひとつの入れ替えで、同じ努力がずっと残る形に変わる。今日の一問から、始められる。

参考文献

  1. Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249-255. https://journals.sagepub.com/doi/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
  2. Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966-968. https://www.science.org/doi/10.1126/science.1152408
  3. Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354-380. https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/0033-2909.132.3.354
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  5. Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331(6018), 772-775. https://www.science.org/doi/10.1126/science.1199327
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最終更新日: 2026-08-19
著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された 11 件の研究エビデンス(tier 1=A / tier 2=B)を横断分析・再構成した。
画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より

この記事を編集した人

中村 拓(Taku Nakamura)のポートレート

(編集責任者 / 応用言語学・第二言語習得 エディター(非ネイティブ話者))

応用言語学のバックグラウンドを持つ英語学習分野のエディターで、査読済み SLA 論文・応用言語学ジャーナル・公的機関資料の横断要約と再構成を担当する編集責任者です。非ネイティブ英語話者で、大人の英語学び直しを研究の視点で編集しています。

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