英語ができると第二外国語は覚えやすい?|研究で分かった助けと落とし穴

左にいろいろな語学の勉強をしている男性のイラスト、右に中国語を勉強している女性のイラストが並ぶ。英語の次に別の外国語を学ぶことを表している。 脳科学・第二言語習得

英語ができると第二外国語は覚えやすい?|研究で分かった助けと落とし穴

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

英語の次に中国語も気になってます。英語の経験って役に立つんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

気になりますよね。研究では「役立ちうる」という話と「混ざって邪魔になる」という話の両方が出てきます。順番に見ていきましょう。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

でも英語もまだ中途半端なんですよ…。手を出していいのか不安で。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

多くの人が同じところで迷います。実は、3 つ目の言語の学び方を調べる研究分野があって、この迷いをそのまま問いとして扱っているんですよ。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

研究って、僕みたいな普通の会社員にも当てはまるんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

大事な疑問です。研究は誰を対象に調べたかで、結論が届く範囲が変わります。この記事では、その違いも一緒に確かめていきます。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

なるほど。じゃあ具体的には、どこから考えればいいですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

この記事では、覚える速さ・混ざる現象・しくみに気づく力の順に、研究を 1 本ずつ見ていきます。気になる章から読んでも大丈夫です。

結論: すでに 2 つの言語を知っていることが、次の言語の学習で有利になりうる、とまとめた研究のレビューがある。
単語を覚える実験では、小さいころから 2 つの言語を使ってきた人の成績が良かった。
一方、文法の実験では成績に差がなく、脳の反応の仕方だけが違った。
前に学んだ言語が新しい言語に混ざる現象も、研究で確かめられている。
ただし研究の多くは、小さいころから 2 つの言語を使ってきた人や、2 つの言語で授業を受けた生徒が対象だ。
日本で英語をやり直している大人に同じ有利さがあるかは、まだ分かっていない。

この記事でわかること

  • 「英語ができる人は次の言語が覚えやすい」が、研究でどこまで確かめられているか
  • 研究に出てくる「バイリンガル」と、日本で英語を学ぶ大人との違い
  • 前に学んだ言語が新しい言語に混ざる理由と、どの言語から混ざりやすいか
  • 英語をやり直し中の大人が、第二外国語に取り組むときの損の少ない考え方

「英語ができると次の言語は楽になる」は研究で確かめられているのか

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

「有利になりうる」って、結局は有利なんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

気持ちはわかります。2018 年のレビューは「示唆している」という控えめな言い方で、まだ調べる必要があるテーマも残ると書いています。

「英語の経験は、中国語や韓国語を学ぶときに役立つのか」。
この問いは、研究では第三言語習得という分野で扱われている。
第三言語習得とは、すでに 2 つの言語を知っている人が、3 つ目の言語を学ぶことだ。
日本語が母語の人なら、英語が 2 つ目、スペイン語が 3 つ目、という数え方になる。

入口になるのが、イスラエルのハイファ大学の Hirosh と Degani という研究者による 2018 年のレビューだ。
レビューとは、たくさんの研究を集めて全体の傾向を見渡すまとめの論文のことだ。
このレビューは、複数の言語を知っていることが新しい言語の学習で有利になりうる、と述べている。
ただし言い方は「示唆している」という控えめなものだ。
まだ体系的に調べる必要があるテーマも残っている、とはっきり書いている。

このレビューは、有利さが生まれる道筋を 2 つに分けている。
1 つ目は直接の効果で、前に学んだ知識や技をそのまま使える効果だ。
2 つ目は間接の効果で、多言語の経験によって頭の働き方全体が変わる効果だ。
料理が得意な人なら、包丁の使い方はそのまま使え、段取りの考え方も変わる、というイメージだ。

また、レビューが扱った研究の大半は単語の学習に集中していた。
発音や文法、読み書きの学習を調べた研究はそれより少ない。
つまり「単語以外でも同じように有利か」は、まだ材料が少ないということだ。

もう 1 つの入口が、Cenoz という研究者の 2003 年のレビューだ。
Cenoz は、2 つ以上の言語を使う人の学び方を研究してきた研究者だ。
このレビューは、3 つ目の言語の「全体の力」を見た研究と、「特定の部分」を見た研究を分けて考えるべきだと指摘した。
テストの総合点と、リスニングだけの点を混ぜて語らないようにしよう、という注意に近い。
効果の大きさを示す数値は、このレビューの要約には出てこない。

ここまでのまとめ: 多言語の経験が次の言語の学習で有利になりうる、とするレビューはある。ただし控えめな表現で、決着していない部分も残る。

研究に出てくる「バイリンガル」は誰のことか

研究の結果を自分に当てはめる前に、参加者がどんな人かを確かめておきたい。
研究に出てくるバイリンガルは、小さいころから 2 つの言語を使ってきた人が多い。
このような人を早期バイリンガルと呼ぶ。
たとえば家では中国語、学校では英語を使って育った人がそうだ。

一方、日本で大人になってから英語をやり直している人は、後から学んだ学習者だ。
例えるなら、生まれた時から自転車が 2 台ある人と、大人になってから 2 台目を買った人の違いだ。
どちらも 2 台持っているが、乗ってきた年数も乗り方の慣れもまったく違う。

そもそも、この言葉の意味も研究によって幅がある。
Cenoz の 2013 年の論文は、多言語という言葉の定義を整理した。
「両方ペラペラな人」だけを指すとは限らない、ということだ。

小さいころから 2 つの言語にふれる子どもの話は、子供の英語の早期教育にどんなメリットがあるのかを研究で整理した記事で詳しく扱っている。
以下では研究ごとに対象者を書くので、自分に近いかを確かめながら読んでほしい。

ここまでのまとめ: 研究のバイリンガルは、小さいころから 2 つの言語を使ってきた人が多い。日本で英語を学び直す大人とは条件が違う。

新しい単語を覚える速さに差はあるのか

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

バイリンガルの人は、単語を覚えるのが速いんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

ある実験では、小さいころから 2 つの言語を使ってきた大人が、架空の単語を覚えるテストで英語だけの人より良い成績でした。本物の言語での話ではありません。

単語について調べた代表的な実験が、Kaushanskaya と Marian の 2009 年の研究だ。
筆頭著者の Kaushanskaya は、アメリカのウィスコンシン大学の研究者だ。

参加したのは大人で、3 つのグループに分かれていた。
英語だけを話す人、早期の英語とスペイン語のバイリンガル、早期の英語と中国語のバイリンガルだ。
全員が、初めて聞く発音の架空の単語を、英語の訳と結びつけて覚えた。

テストの結果、2 つのバイリンガルのグループはどちらも、英語だけの人より成績が良かった。
著者は、大人のバイリンガルには単語を覚えるうえで一般的な有利さがある、と示唆している。
2 つの言語を行き来する毎日が、知らない音を覚える練習になっていた、というイメージだ。

ただし、この結果を読むときに 3 つの注意がある。
1 つ目は、参加者が早期バイリンガルで、後から英語を学んだ人ではないことだ。
2 つ目は、覚えたのが実験用の架空の単語で、本物の中国語や韓国語ではないことだ。
3 つ目は、実験室でのテストで、何ヶ月もかけた実際の学習を追ったものではないことだ。
「英語を学んだ大人なら中国語の単語が速く覚えられる」とまでは言えない。

ここまでのまとめ: 早期バイリンガルの大人は、架空の単語を覚えるテストで成績が良かった。実際の言語の学習期間を示したものではない。

文法を覚えるときの脳の働き方は違うのか

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

文法も、バイリンガルのほうが早く覚えられるんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

実は、練習用のミニ言語の文法を学ぶ実験では成績に差がなかったんです。違ったのは脳の小さな電気の波の出方で、頭の使い方が違ったという結果です。

文法については、Grey らの 2018 年の研究がある。
Grey らは、脳の反応から言葉の学び方を調べた研究チームだ。
要約では、文法でも有利かどうかの証拠は少ない、と述べている。

参加したのは、早期の中国語と英語のバイリンガルと、英語だけを話す大人だ。
全員が人工言語の文法を学んだ。
人工言語とは、実験のために作った練習用のミニ言語のことだ。
学び始めと、かなり上達した段階の 2 回、文が正しいかを判断する課題に取り組んだ。

そのときの脳の反応を、ERP という方法で測った。
ERP は、脳が言葉に反応するときに出る、とても小さな電気の波のことだ。
心電図で心臓の動きを見るように、頭の表面から脳の反応のパターンを見る。

結果、成績には 2 つのグループの間で差がなかった。
違ったのは脳の反応のパターンだ。
学び始めの段階で、P600 と呼ばれる波がバイリンガルにだけ出た。
P600 は、母語の話し手が文法をチェックするときによく出る波で、「文法の見張り役」のようなものだ。
上達した段階では両方のグループに P600 が出たが、英語だけの人には別の反応も混じっていた。

点数は同じでも、解くときの頭の使い方が違った、という結果だ。
文法を早く覚えた、という意味ではない。

もう 1 つ、本物の言語を学んだ研究として Sanz の 2000 年の研究がある。
Sanz は、スペインのカタルーニャ地方の高校生の英語の力を調べた研究者だ。
カタルーニャ語とスペイン語の二言語教育を受けた生徒と、スペイン語だけの生徒を比べた。
二言語教育とは、学校の授業を 2 つの言語で受ける教育のことだ。
201 名のデータを、重回帰分析という方法で分析した。
重回帰分析とは、勉強時間などの条件をそろえて、1 つの要因の影響だけを取り出す計算だ。
料理の味から、塩だけの効き目を見分けるようなものだ。

その結果、2 つの言語を使うことは英語の習得にプラスの効果があった。
ただし対象は高校生で、カタルーニャ語とスペイン語は互いに近い言語だ。
日本語と英語を知る日本人の大人に、同じ有利さがあるとは言えない。

ここまでのまとめ: 文法の実験では成績に差がなく、脳の反応だけが違った。実際の英語の研究ではプラスの効果が出たが、対象は高校生だ。

前に学んだ言語が混ざるのはなぜか

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

スペイン語を話すと英語が出てくるんです。僕だけですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

多くの人がそうです。前の言語のクセが持ち込まれる「転移」は研究でも確かめられていて、学び始めは 2 番目の言語から移りやすいという報告があります。

スペイン語を話そうとして、つい英語の単語が出てくる。
研究ではこうした現象を転移と呼ぶ。
転移とは、前に学んだ言語のクセが、新しい言語に持ち込まれることだ。

では、どの言語から混ざるのか。ここには大きく 2 つの考え方がある。

1 つ目は、Bardel と Falk の 2007 年の研究が示した考え方だ。
2 人は、3 つ目の言語の文法がどう身につくかを調べた研究者だ。
3 つ目の言語としてスウェーデン語かオランダ語を学ぶ、2 つのグループを比べた。
調べたのは、否定の言葉を文のどこに置くかだ。

結論は、学び始めの段階では、文の組み立ては母語より 2 番目に学んだ言語から移りやすい、というものだった。
この考え方は L2 status factor と呼ばれる。
「2 番目の言語という立場そのものが影響する」という意味の名前だ。
頭の中の「外国語の引き出し」を先に開けてしまうイメージに近い。
なお 2 つのグループの違いは、2 番目の言語の知識と言語どうしの近さの組み合わせで説明できる、とも述べている。

2 つ目は、Rothman の 2011 年の研究が示した考え方だ。
Rothman は、3 つ目の言語の文法の移り方を調べた言語学者だ。
こちらは、少なくとも一定の条件では、似ている言語から影響が来る、という立場をとる。
この考え方は typological primacy model と呼ばれる。
「言語の形が似ているかどうかが、まず効いてくる」というモデル、という意味だ。

Rothman は、言語の組み合わせが違う 2 つのグループを比べた。
1 つは、イタリア語が母語で英語を学び、3 つ目にスペイン語を学ぶ人たちだ。
もう 1 つは、英語が母語でスペイン語を学び、3 つ目にポルトガル語を学ぶ人たちだ。
どちらのグループも、英語には無い形容詞の細かい意味の違いを、3 つ目の言語で正しく理解していた。
その知識は、母語か 2 番目の言語かに関係なく、似ている言語から来たと解釈された。
似た顔の兄弟に道を聞くように、頭が手本を選んでいる、という考え方だ。

ここで日本人の例を考えてみる。
これは研究の結果ではなく、2 つの考え方を説明するための例えだ。
日本人がスペイン語を学ぶとき、英語の単語や語順が出てくることがある。
L2 status factor なら「英語が 2 番目の言語だから」と説明する。
typological primacy model なら「スペイン語は日本語より英語に似ているから」と説明する。
どちらの説明でも、英語が顔を出す点は同じになるのが面白いところだ。

ここまでのまとめ: 混ざる元は「2 番目に学んだ言語」とする説と、「似ている言語」とする説がある。日本人の例は説明用で、研究結果ではない。

結局どの考え方が支持されているのか

どちらが正しいかを全体から見ようとしたのが、Puig-Mayenco らの 2020 年の研究だ。
この研究はシステマティックレビューという方法をとっている。
システマティックレビューとは、同じテーマの研究を決まったルールで集め、全部並べて全体を見る方法だ。
1 本の研究だけで決めない、総まとめの通知表のようなものだ。

対象は、大人が 3 つ目の言語を学ぶときの転移の研究だ。
母語、2 番目の言語、その両方が、いつ、どのように、どのくらい影響するかを調べた。

その結果、いくつかの要因は他の要因より影響が大きいことが示唆された。
ただし、どの要因がそうなのかは、要約の段階では読み取れない。
どのモデルが一番支持されたかも、本記事の確認範囲では断定できない。

研究の方法の違いが、データの解釈を左右することも示された。
同じ現象を調べても、測り方が違えば「支持する」「支持しない」が変わりうる。

ここから言えるのは、1 つの考え方で全部を説明できる段階ではない、ということだ。
大切なのは、研究者がどちらの立場でも転移そのものは起きる前提で調べている点だ。
Bardel と Falk も、学び始めの段階での転移をはっきり示している。
だから第二外国語に英語が混ざっても、才能がない証拠だと考える必要はない。

ここまでのまとめ: 転移の研究をまとめたレビューでも、勝つ考え方は 1 つに決まっていない。混ざること自体は、研究で前提として扱われる現象だ。

言葉のしくみに気づく力という間接の効果

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

メタ言語意識って言われても、ピンと来なくて…。

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

言葉を一歩引いて眺め、しくみに気づく力のことです。料理を食べるだけでなくレシピを読み解く力に近く、複数の言語を学ぶと育ちうると論じた論文があります。

直接の効果とは別に、間接の効果もある。
その中心にあるのが、メタ言語意識という考え方だ。
メタ言語意識とは、言葉を一歩引いて眺め、しくみに気づく力のことだ。
料理を食べるだけでなく、レシピを読み解く力に近い。

この考え方を論じたのが、Jessner の 1999 年の論文だ。
Jessner は、多言語を使う人の頭の働きを論じた言語学者だ。
2 つ以上の言語の力を身につけると、メタ言語意識が高まりうる、と論じている。
そしてこの力が、転移を通して新しい言語の学習を助ける、という立場をとる。

この論文はデータで効果を測ったものではなく、理論を中心にした論考だ。
例として、イタリア語とドイツ語のバイリンガルが英語で文章を書くときの、頭の中の声を示している。
効果の大きさを数値で示したものではない点に注意したい。

Jessner は教室への提案として、前に学んだ言語の知識を思い出させることを挙げた。
言語どうしの似ている点に目を向けさせ、気づく力を育てるべきだ、という提案だ。

Cenoz のレビューも、3 つ目の言語への効果をこの気づく力と結びつけて論じている。

英語で「文法を比べる」「辞書で語の成り立ちを調べる」経験をしてきた人は多い。
そうした学び方の経験が、次の言語で生きる可能性はある。
たとえば英語の冠詞は、数えるかどうかの感覚に関わる、という見方がある。
これは英語の冠詞 a・the が身につかない理由を「頭の中の数え方」から解いた記事で扱った。
こうした「言語ごとの見方の違い」に気づいた経験は、次の言語で比べる練習になりうる。
ただし、それで覚えるのが速くなるとまでは、研究は言っていない。

ここまでのまとめ: 複数の言語を学ぶと、しくみに気づく力が育ちうるという論考がある。ただし理論が中心で、効果の大きさは示されていない。

英語をやり直し中の大人は、第二外国語にどう取り組めばいいか

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

結局、英語が中途半端でも始めていいんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

始めてはいけないと示した研究は、今回の範囲では見当たりません。英語と比べながら学び、混ざったら直す、という構えが研究と矛盾しない方法です。

研究から言えることは、次の 3 つだ。

  • 早期バイリンガルが、架空の単語を覚えるテストで有利だった研究がある
  • 前に学んだ言語が新しい言語に混ざる転移は、学び始めに起きることが示されている
  • 複数の言語を学ぶと、しくみに気づく力が育ちうるという考え方がある

研究からまだ言えないことも、3 つある。

  • 日本で英語を学び直す大人に、同じ有利さがあるか
  • 英語がどのくらいできれば、次の言語で有利になるか
  • 英語と並行して学ぶか、順番に学ぶか、どちらが良いか

「英語が中途半端なまま始めてはいけない」と示した研究は、今回の範囲では見当たらない。

そのうえで、研究と矛盾しない損の少ない工夫を挙げておく。
1 つ目は、英語と比べながら学ぶことだ。
これは Jessner が教室への提案として挙げた方向と同じだ。
「この語順は英語と同じか、違うか」と意識するだけでも、比べる練習になる。

2 つ目は、混ざったら直せばよい、と考えることだ。
学び始めの段階で、2 番目に学んだ言語から文の組み立てが移ることが示されている。
英語が出てきたら、自分のクセに気づくきっかけにすればよい。

3 つ目は、似ている部分に頼りすぎないことだ。
似ている言語から影響が来やすいという考え方がある。
似ていることは助けになりうるが、似ているからこそ混ざる面もある。

大人と子どもの学び方の違いについては、「大人の英語は限界がある」は本当かを大規模な研究で確かめた記事も参考になる。
年齢の壁と、第二外国語の学びやすさは、別の問いとして考えたほうがよい。

ここまでのまとめ: 研究で言えるのは「助けになりうる」「混ざるのは自然」までだ。英語と比べて学び、混ざったら直す構えが損の少ない方法だ。

AI に「英語と比べて説明して」と頼むと、研究の条件に近づけるか

生成 AI とは、質問に文章で答えてくれる、ChatGPT のようなしくみのことだ。
たとえば「英語と比べて、中国語の語順を説明して」と頼むことができる。

研究が示した条件を思い出してみよう。
Jessner は、前に学んだ言語との似ている点に目を向けることが気づく力を育てる、と論じた。
Hirosh と Degani も、前の知識が移る直接の効果と、頭の働き方が変わる間接の効果を挙げている。
英語と比べる説明を AI に頼むことは、この「比べて気づく」条件に近い形をとれるかもしれない。

一方で、注意したい点もある。
転移の研究では、前に学んだ言語のクセが新しい言語に持ち込まれることが示されている。
英語ばかりを手がかりにすると、英語の影響を強めてしまう面はないのか、という問いが残る。

この点を AI で確かめた研究は、まだ少ない。
AI に英語と比べて説明させる学び方が第二外国語の習得を助けるのか、混ざりを強めるのかは、分かっていない。
だから AI の説明は、比べる視点を得る道具の 1 つと考えるのが今の研究と合うだろう。

ここまでのまとめ: AI に英語と比べて説明させることが、研究の「比べて気づく」条件を満たせるかは、まだ検証が少ない。混ざりを強める可能性も含めて問いのままだ。

よくある質問

Q1. 英語ができる人は、第二外国語を早く覚えられますか?

有利になりうることを示唆するレビューはあります。
ただし研究の多くは早期バイリンガルが対象です。
日本で英語を学び直す大人が早く覚えられるかは、まだ確かめられていません。

Q2. 英語が中途半端なまま、別の言語を始めてもいいですか?

始めてはいけないと示した研究は、今回の範囲では見当たりません。
どのくらい英語ができれば有利かを、日本人の大人で確かめた研究も少ないです。
目的に合わせて決めてよい、と考えるのが現実的です。

Q3. スペイン語を話すと英語が混ざります。才能がないのでしょうか?

前に学んだ言語が混ざる転移は、研究では前提として扱われる現象です。
混ざるという事実だけで、才能の有無は判断できません。
混ざったら気づいて直す、を続けるのが現実的です。

Q4. 英語に似ている言語を選んだほうが楽ですか?

似ている言語から影響が来やすい、という考え方があります。
似ている部分は助けになりえますが、混ざりやすさにもつながります。
どの言語から影響が来やすいかを決める要因は、研究をまとめても 1 つに決まっていません。

Q5. 英語と第二外国語を同時に勉強しても大丈夫ですか?

どちらが良いかは、大人の学習者では研究で決着していません。
混ざる現象が起きうることを知っておけば、慌てずにすみます。

まとめ

すでに 2 つの言語を知っていると、次の言語の学習で有利になりうる、とするレビューがある。
単語の実験では早期バイリンガルの成績が良く、文法の実験では脳の反応だけが違った。
二言語教育を受けた高校生では、英語の習得にプラスの効果が出た研究もある。

前に学んだ言語が混ざる転移には、「2 番目の言語から」と「似た言語から」の 2 つの説がある。
どちらが正しいかは、研究をまとめても 1 つに決まっていない。

研究の多くは、日本で英語を学び直す大人とは条件が違う人たちが対象だ。
英語と比べながら学び、混ざったら直す、という構えが研究と矛盾しない取り組み方だ。

参考文献

  1. Hirosh, Z., & Degani, T. (2018). Direct and indirect effects of multilingualism on novel language learning: An integrative review. Psychonomic Bulletin & Review, 25(3), 892-916. https://doi.org/10.3758/s13423-017-1315-7
  2. Cenoz, J. (2003). The additive effect of bilingualism on third language acquisition: A review. International Journal of Bilingualism, 7(1), 71-87. https://doi.org/10.1177/13670069030070010501
  3. Kaushanskaya, M., & Marian, V. (2009). The bilingual advantage in novel word learning. Psychonomic Bulletin & Review, 16(4), 705-710. https://doi.org/10.3758/PBR.16.4.705
  4. Grey, S., Sanz, C., Morgan-Short, K., & Ullman, M. T. (2018). Bilingual and monolingual adults learning an additional language: ERPs reveal differences in syntactic processing. Bilingualism: Language and Cognition, 21(5), 970-994. https://doi.org/10.1017/S1366728917000426
  5. Sanz, C. (2000). Bilingual education enhances third language acquisition: Evidence from Catalonia. Applied Psycholinguistics, 21(1), 23-44. https://doi.org/10.1017/S0142716400001028
  6. Bardel, C., & Falk, Y. (2007). The role of the second language in third language acquisition: The case of Germanic syntax. Second Language Research, 23(4), 459-484. https://doi.org/10.1177/0267658307080557
  7. Rothman, J. (2011). L3 syntactic transfer selectivity and typological determinacy: The typological primacy model. Second Language Research, 27(1), 107-127. https://doi.org/10.1177/0267658310386439
  8. Puig-Mayenco, E., González Alonso, J., & Rothman, J. (2020). A systematic review of transfer studies in third language acquisition. Second Language Research, 36(1), 31-64. https://doi.org/10.1177/0267658318809147
  9. Jessner, U. (1999). Metalinguistic awareness in multilinguals: Cognitive aspects of third language learning. Language Awareness, 8(3-4), 201-209. https://doi.org/10.1080/09658419908667129
  10. Cenoz, J. (2013). Defining multilingualism. Annual Review of Applied Linguistics, 33, 3-18. https://doi.org/10.1017/S026719051300007X

最終更新日: 2026-10-19

著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された 10 件の研究エビデンス(tier 1=9 件 / tier 2=1 件)を横断分析・再構成した。

画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より

この記事を編集した人

中村 拓(Taku Nakamura)のポートレート

(編集責任者 / 応用言語学・第二言語習得 エディター(非ネイティブ話者))

応用言語学のバックグラウンドを持つ英語学習分野のエディターで、査読済み SLA 論文・応用言語学ジャーナル・公的機関資料の横断要約と再構成を担当する編集責任者です。非ネイティブ英語話者で、大人の英語学び直しを研究の視点で編集しています。

編集した記事: 148 本

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