帰国子女の英語は日本に帰ると忘れるのか|帰った年齢と「残る力」を研究で解説

左に帰国子女の女性のイラスト、右に英語の本を開いて勉強している女の子のイラストが並ぶ。海外から帰ってきた人と、英語の勉強を続ける様子を表している。 バイリンガル教育

帰国子女の英語は日本に帰ると忘れるのか|帰った年齢と「残る力」を研究で解説

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

帰国したら、子どもの英語って全部消えちゃうんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

気持ちはわかります。多くの親御さんが同じ不安を持っています。実は、帰国後の英語を何年も追いかけた研究があるので、一緒に見ていきましょう。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

僕も帰国子女だったのに、今は全然話せないんですよね…

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

そういう大人の方も多いです。言葉の忘却の研究は、母語・海外で覚えた英語・学校の英語を別々に調べているので、まず分けて考えるのが大切です。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

研究と言われても、僕の英語が戻るかは別ですよね?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

その不安は自然です。研究は「何歳で帰ったか」「帰国後どれだけ英語に触れたか」のように条件ごとに整理してくれるので、自分に近い条件を探せます。

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

じゃあ、具体的には何から知ればいいんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

この記事では、帰国子女を追いかけた研究から学び直しの研究まで、13 本の研究を順番に解説していきます。焦らず読み進めてください。

結論: 日本人の帰国子女を追いかけた研究では、帰国して 1 年の間、グループ全体の英語の物語の力に大きな変化は見られなかった。英語の発音の感じが変わったのは、帰国 5 年後になってからだった。ただし、帰国後も英語に触れ続けた子ほど細かい言葉の使い方を保っていた。年齢の境目は研究ごとに違い、一つの数字では言えない。忘れたように見えても、子どもの第二言語の研究では学び直しが 1 回目より速く、養子の研究では一度も触れたことのない人より速く覚え直せた。学校で習った外国語の大きな部分が何十年も残ったという研究もある。

この記事でわかること

  • 母語の忘却・英語の忘却・学校英語の忘却が、別々の研究であること
  • 日本人の帰国子女を、誰を何年追いかけて、何が分かったのか
  • 帰国した年齢で忘れ方が違うのか、どこまで分かっているのか
  • 忘れた英語は消えたのか、学び直すと戻りやすいのか

「帰国したら英語が消える?」という不安と、3 つの別々の研究

子どもが現地の学校で英語を身につけたのに、帰国して半年ほどで英語が出てこなくなってきた。そんな親の不安がよく挙がる。

反対に「小学生の頃は英語が話せたのに、今はほとんど話せない」と悩む大人もいる。あの英語は消えたのか、今から戻るのか、という問いだ。

使わなくなって言葉の力が落ちることを、研究では「言語の忘却 (attrition)」と呼ぶ。長く乗らない自転車がぎこちなくなるようなもの、というイメージだ。

この忘却の研究には、混ぜてはいけない 3 つの種類がある。

  1. 母語の忘却 (L1 = 生まれて最初に覚えた言葉。日本人なら日本語) の研究
  2. 海外で身につけた第二言語 (L2 = 後から覚えた言葉。この記事では英語) の忘却の研究
  3. 学校で習った外国語を、大人になって忘れる研究

1 の母語の話は、英語を勉強すると日本語が下手になるのか、母語が揺らぐ年齢の研究で扱った。3 の学校英語の話は、学校で習った英語はどこへ消えたのかを扱った記事にまとめてある。

この記事は 2 の「海外で身につけた英語が帰国後どうなるか」に絞る。1 や 3 の研究を使うときは、必ずそうだと断ってから紹介する。

ここまでのまとめ: 母語の忘却・海外で身につけた英語の忘却・学校英語の忘却は別の研究分野だ。この記事は帰国後の英語の話に絞る。

日本人の帰国子女を追いかけた研究

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

「縦断研究」って言われても、ピンと来なくて…

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

同じ人を時間をあけて何度も調べる研究で、定点カメラの記録のようなものです。Kubota らは帰国直後と 1 年後の 2 回、英語と日本語の両方を測りました。

日本では、帰国子女の英語がどうなるかを追いかけた研究が 1980 年代末から続いている。Taura (2019) の総説 (= たくさんの研究を集めて流れを整理した文章) は、それを時代順にまとめている。

総説によると、初期の研究は「英語の環境を離れたあと、帰国子女の英語に何が起きるか」を手探りで調べた。

その中の 1 本が、Tomiyama (1999) の事例研究 (= 1 人の人をじっくり調べる研究) だ。1 人の帰国子女の英語が日本語の環境に戻ってどう落ちていくかを、時間をかけて追った。

これは縦断研究 (= 同じ人を何度も時間をあけて調べる研究) で、定点カメラで同じ角度から撮り続ける記録に近い。当時こうした研究はほとんど無かった、と著者は位置づけている。ただし 1 人の記録なので、すべての帰国子女に当てはめることはできない。

Reetz-Kurashige (1999) は、学齢期の日本人帰国子女 18 人の話す英語を、12-18 か月にわたって追いかけた。学齢期とは、小学生から高校生くらいまでの年ごろのことだ。インタビューや自由な会話、物語を話してもらう課題でデータを集めている。

物語を話す課題は、「昨日あったことを英語でお話しして」と頼み、言い方の変化を記録するようなものだ。1 人を追いかけた期間は 12-18 か月だが、注目した範囲は「帰国後最初の 3 年間」の動詞の形の変わり方だ。

もっと新しい研究もある。Kubota ら (2022) は、帰国直後と 1 年後の 2 回、日本語と英語の両方で物語を話してもらった。帰国子女の 2 つの言語を、時間を追って両方測った初めての研究だと著者は述べている。

ここまでのまとめ: 日本人帰国子女の研究は、1 人を追う事例研究から、複数の子を 1 年以上追う研究まで積み重なっている。

帰国 1 年では大きく崩れなかった、という報告

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

帰国して 1 年もたったら、英語はガタ落ちですよね?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

気持ちはわかります。でも Laméris らが 5 年間録音した研究では、英語のなまりが強くなったのは帰国 5 年後でした。すぐ崩れるわけではないんです。

では、帰国すると英語はすぐに崩れるのだろうか。Kubota らの研究では、グループ全体で見ると 1 年の間に大きな変化は出なかった。

具体的には、日本語でも英語でも、物語の力に統計的に意味のある変化 (= 偶然とは言いにくい、はっきりした差) は見られなかった。ここでいう物語の力は、細かい言葉の使い方と話の組み立てのことだ。

発音を調べた研究もある。Laméris ら (2025) は、帰国子女の話し声を 5 年間に 3 回録音した。英語と日本語の母語話者に、なまり (外国語っぽい発音の感じ) の強さを評価してもらった研究だ。

予想とは違う結果が報告されている。日本語のなまりは帰国 1 年後に減り、英語のなまりが強くなったのは帰国 5 年後になってからだった。

たとえるなら、英語の発音は帰国してすぐ崩れるのではなく、何年かかけてじわじわ日本語っぽくなっていく、という形だ。著者は、英語が比較的安定して保たれていたと解釈している。

ただし、この研究が測ったのは発音の印象だけだ。語彙や文法など、英語の力全体を測ったわけではない。

ここまでのまとめ: 帰国 1 年では物語の力に大きな変化が出ず、英語の発音の変化は 5 年後に表れた、という研究がある。ただし測ったものは限られている。

何が落ちやすく、何が保たれやすいのか

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

「取り出し失敗仮説」って、何のことですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

本棚に本はあるのに、どこにしまったか思い出せない状態のことです。Taura の総説によると、帰国子女研究ではこの考えが検証されてきました。

「話す力から先に落ちる」という話をよく聞くが、今回確認した研究の要旨には、それを直接示すものは無かった。分かっている範囲を研究ごとに分けて見ていく。

まず、落ちる「仕組み」についての考え方が 2 つある。日本の帰国子女研究では、次の 2 つの仮説の検証に焦点が移ってきた。

  • 逆行仮説 (= 後から覚えたものから先に落ちる、という考え。最後に積んだ積み木から崩れるイメージ)
  • 取り出し失敗仮説 (= 知識は残っているのに、取り出せなくなるという考え)

取り出し失敗仮説は、本棚に本は残っているのに、どこにしまったか思い出せず手が伸びない状態にたとえられる。総説はこの 2 つが検証されてきたと述べているが、どちらが正しいかの結論は要旨には無い。

2010 年以降は、冠詞 (a と the) や物語を話す力などが調べられた。データも話し言葉や書き言葉から、脳の画像まで広がっている。

日本以外の研究も 1 つ見ておく。Alraddadi ら (2025) は、英語圏から帰国したサウジアラビアの子どもと 10 代を調べた。

調べたのはコロケーション (= pay attention のように、よく一緒に使う語の組み合わせ) だ。英語に触れる量が減ったとき、この組み合わせがどれだけ落ちやすいかを見た研究である。

著者は「バイリンガル (= 2 つの言葉を使える人) は誰でも忘れていく」という主張への反証もいくらか示した、と述べている。つまり、全部が一律に消えていくわけではない、という見方だ。

ここまでのまとめ: 落ちる仕組みとして「積み木の上から崩れる」「本棚から取り出せない」の 2 つの考えが検証されてきた。何から落ちるかを一つに決める証拠は、今回の研究には無い。

帰国した年齢で違うのか: 一つの数字では言えない

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

結局、何歳までに帰ると英語は消えるんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

そこは一つの数字では言えないんです。8 歳前後とする Larson-Hall のまとめも、12 歳前後とする母語の研究もあり、対象がばらばらだからです。

親がいちばん気になるのは「何歳で帰ると忘れやすいのか」だろう。ここは研究の対象がばらばらなので、1 本ずつ断りながら紹介する。

サウジアラビアの研究では、子どもの帰国者は 10 代の帰国者より英語のコロケーションに苦戦していた。ただし著者は、その理由を 2 つ挙げている。

1 つは、子どもの帰国者がそもそもコロケーションを 10 代ほど身につけていなかったこと。もう 1 つは、アラビア語の影響を受けやすかったことだ。年下の子が苦戦したのは、忘れたからというより、帰国時点でまだ覚えきっていなかったから、という見方になる。

日本人帰国子女の発音の研究でも、変化の大きさは英語を始めた年齢と、海外で英語にどれだけ触れたかで違った。ここでの年齢は、帰国した年齢ではなく英語を始めた年齢だ。

Larson-Hall (2017) は、年齢と第二言語の忘却の先行研究 (= それまでに行われた研究) を見直した。そして、8 歳前後を境に忘れ方に差があるという証拠が強いと述べた。ただしこれは 1 人の研究者のまとめで、定説ではない。

さらに、この研究で調べたのは英語が母語で、日本語を後から身につけた子ども 3 人だ。日本人の帰国子女とは、言葉の向きが逆である。

年齢の研究がいちばん多いのは、実は母語の忘却の分野だ。Bylund (2019) の総説は、母語の忘れやすさが変わるのはおよそ 12 歳 (思春期) 前後だと示唆している。

12 歳ごろまでの言葉は、まだ固まりきっていない粘土のように形が変わりやすい、というイメージだ。ただし、思春期以降に忘却が起きないという意味ではない。

また、思春期前の子どもでは、気持ちや周りの環境などが年齢の影響を埋め合わせる余地が大きい、とも示唆されている。繰り返しになるが、これは母語の話で、英語にそのまま当てはめることはできない。

このように、研究ごとに「8 歳前後」「12 歳前後」と数字が違い、対象も違う。「○歳までに帰ると消える」と一つの数字で言い切れる研究は無い。身につける側の年齢の壁は、発音・文法・流暢さで違う年齢の壁を整理した記事で扱っている。

ここまでのまとめ: 年齢で忘れ方が違うという議論はあるが、数字は研究ごとに違い、対象も母語や逆向きの子どもだったりする。帰国子女の英語を一つの年齢で線引きはできない。

幼いうちに言葉の環境が入れ替わると: 結論は割れている

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

fMRI って、どんな検査なんですか?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

脳のどこが働いているかを写真のように見る検査です。Pallier らはこれで、養子の人の脳に韓国語への特別な反応は見られなかったと報告しました。

ここからは、もっと極端な例を見る。赤ちゃんや幼い頃に国際養子 (= 外国の家庭に引き取られた子ども) になり、生まれた国の言葉を使わなくなった人の研究だ。

先に断っておくと、これは母語を幼いうちに完全に失った人の研究で、帰国子女の英語とは同じではない。それでも「幼い頃の言葉は残るのか」を考える手がかりにはなる。

Pallier ら (2003) は、韓国で生まれ子ども時代にフランスの家庭に養子に入った成人を調べた。対象者はフランス語が流暢で、韓国語の記憶は無いと答えていた。

韓国語の記憶をみるテストでは、韓国語に触れたことのないフランス人と比べて、成績が良いわけではなかった。

脳も調べている。fMRI (= 脳のどこが働いているかを写真のように見る検査) で、韓国語の文を聞いても、知らない外国語と比べて特別な反応は見られなかった。幼い頃の言葉が、新しい言葉にすっかり上書きされたように見えた例だ。

一方で、反対の方向の研究もある。Pierce ら (2014) は、中国から平均 12.8 か月でフランス語の環境に入った 9-17 歳の子どもを調べた。

この子たちは中国語に平均 12.6 年触れておらず、意識的な記憶も無かった。それなのに、中国語の声調 (= 音の高さの上げ下げで意味が変わるしくみ) を聞いたとき、中国語とフランス語の両方を話す人と一致する脳の反応を示した。

意識では忘れていても、脳には赤ちゃんの頃の言葉の足あとが残っていた、という研究だ。この論文には訂正が出ていることも付け加えておく。

Choi ら (2017) は、幼い頃に韓国からオランダへ養子に入った成人 29 人を、条件をそろえた 29 人と比べた。短いトレーニングで、オランダ語に無い韓国語の子音の区別を、養子の人たちの方が速く覚えた。

つまり、幼い頃の言葉の痕跡が残るかどうかは、研究によって結論が割れている。どれも母語の研究であり、帰国子女の英語にそのまま当てはめないことが大切だ。

ここまでのまとめ: 幼い頃に失った母語は「上書きされた」ように見えた研究と、「足あとが残り学び直しが速い」研究があり、結論は割れている。

表に出なくても残る? 学び直しの速さ

英語学び直したいユーイチ
英語学び直したいユーイチ

「節約」って、お金の話じゃないですよね?

英語独学好きの助教S
英語独学好きの助教S

はい、2 回目は 1 回目より早く覚え直せることです。Larson-Hall の研究では、日本語を忘れた子ども 3 人とも、この節約がはっきり見られました。

大人の読者にとって気になるのは、「消えたように見える英語は、本当に消えたのか」だろう。ここでは、帰国子女とは別の対象の研究を断ったうえで紹介する。

Bahrick (1984) は、アメリカの学校でスペイン語を習った 733 人を、最長 50 年後まで調べた。読解や語彙、文法のテストと質問紙 (= アンケート) を使っている。

記憶は最初の 3-6 年で大きく落ちたが、その後は最長 30 年ほとんど変わらず、最後にまた下がった。使わず復習もしていないのに、覚えた情報の大きな部分が 50 年以上取り出せた。

これを permastore (= 長く保存される記憶の倉庫) と呼ぶ。最初の数年で落ちたあと、残った分は冷凍庫に入れた食べ物のように長持ちする、というイメージだ。

どれだけ残るかは、もともとどれだけ深く学んだかで予測できた。ただし、これは学校で習ったスペイン語の研究で、海外で身につけた帰国子女の英語の研究ではない。

もう 1 つ、学び直しの研究がある。先ほどの Larson-Hall (2017) では、6・8・10 歳で日本語に触れなくなった 3 人を、6 年後に調べた。

3 人とも日本語は大きく落ちていたが、学び直しの節約 (savings) ははっきり見られた。節約とは、2 回目は 1 回目よりずっと早く覚え直せることで、昔通った道を 2 回目に歩くと早く思い出せるのに近い。

Choi らの養子の研究でも、幼い頃に聞いた言葉が学び直しを助けうると著者は述べている。

ここまでをまとめると、帰国子女の英語そのものでの証拠はまだ限られる。それでも、子どもの第二言語や養子の研究からは「消えたように見えても学び直しの土台になりうる」と考えられる。学校学習の研究からは、長く残る部分がありうると考えられる。断定はできないが、悲観しすぎる必要もない。

ここまでのまとめ: 学校で習った外国語は、最初に落ちたあと長く残る部分があった。子どもの第二言語や養子の研究では、学び直しは 1 回目より速かった。帰国子女の英語での直接の証拠はまだ少ない。

研究から考えられる、帰国後の英語との付き合い方

ここまでの研究から、帰国後の英語について言えそうなことを整理する。直接確かめられていないことは「研究から考えられること」として書く。

いちばんはっきりしているのは、英語に触れ続けることの意味だ。Kubota らの研究では、帰国後も英語に触れ続けた子ほど、英語の細かい言葉の使い方をよく保っていた。

細かい言葉の使い方とは、たとえば使う語の種類の豊かさや、1 回の発話に入る動詞の数だ。英語の使う量は、帰国後も水をあげ続けた鉢ほど葉の茂り方が保たれる、水やりのようなものだと考えられる。

注目されるのは、日本語の伸びには帰国した年齢と 2 つの言語の力の差が関係していたことだ。英語と日本語で、効いている条件が違っていた。

発音の研究でも、海外で英語にどれだけ触れたかが変化の大きさと関係していた。学校スペイン語の研究でも、もともと深く学んだ人ほど長く残った。

ここから考えられるのは、次のような見通しだ。

  • 親の方へ: 帰国してすぐに全部が消えるわけではない、という研究がある。英語に触れる時間を少しでも続けることが、研究の見立てに合う
  • 大人の方へ: 話せなくなっていても、子どもの研究では学び直しが 1 回目より速く、養子の研究では触れたことのない人より速く覚え直せた。ゼロからの再出発と考えなくてよい

具体的な教室や教材は、この記事では勧めない。家庭で英語に触れる量をどう作るかは研究ごとに条件が違うので、焦らず続けやすい形を選ぶことが、研究の見立てとも合う。

ここまでのまとめ: 帰国後も英語に触れ続けることが、細かい言葉の力を保つことと結びついていた。大人は学び直しの速さを味方にできる可能性がある。

減った「英語を話す場面」は、オンラインや AI で補えるのか

ここまでの研究で、帰国後も英語に触れ続けた子ほど細かい言葉の使い方を保っていた。では、帰国して減った「英語を話す場面」を、AI 英会話やオンラインの会話で補えば、維持の助けになるのだろうか。

正直に言うと、この点を確かめた研究はまだ少ない。帰国した子どもの英語の維持に AI やオンライン会話を使い、効果を英語の力で測った査読研究は、今回の調査では見つからなかった。査読研究とは、他の専門家のチェックを受けてから雑誌に載った研究のことだ。

近い研究として、シドニーで異なる言葉を話す夫婦 27 組の親に聞き取りをした研究がある。家庭で親の言葉を保つ工夫が、対面からデジタルへ移っていった変化を調べたものだ。そこでは、デジタルでの言葉の維持には、できることと限界の両方があると示唆されている。たとえるなら、画面越しのやりとりは便利な道具になる一方で、できないこともある、という整理だ。ただしこれは親の工夫を聞いた研究で、言葉の力は測っていない。

だから、問いは「AI を使えば英語は落ちないか」ではない。「研究が示した『英語に触れ続ける量』という条件を、AI 相手の会話でどこまで満たせるか」だ。その答えは、これからの研究を待つ必要がある。

ここまでのまとめ: 英語に触れ続ける量を AI やオンラインの会話で補えるかは、まだ確かめられていない。研究が示した条件を満たせるかという問いが残っている。

よくある質問

Q1. 帰国したら、子どもの英語はすぐに消えてしまいますか?
A. すぐに全部が消えるわけではない、という研究があります。日本人帰国子女を調べた研究では、帰国して 1 年の間、グループ全体の物語の力に大きな変化は見られませんでした。英語の発音の変化も、帰国 5 年後に表れていました。

Q2. 何歳までに帰国すると英語を忘れやすいのですか?
A. 一つの数字では言えません。8 歳前後とする研究者のまとめや、12 歳前後とする母語の研究はありますが、対象も研究ごとに違います。帰国子女の英語に、そのまま当てはめられる境目は分かっていません。

Q3. 帰国後、英語の何から先に落ちますか?
A. 「話す力から先に落ちる」と決められる研究は、今回確認した中にはありませんでした。後から覚えたものから落ちるという考えと、知識は残るのに取り出せなくなるという考えが、検証されてきた段階です。

Q4. 子どもの頃の英語を忘れた大人ですが、今から学び直して意味はありますか?
A. あると考えられます。一度覚えた言葉は、忘れたように見えても 2 回目は速く覚え直せたという研究があります。ただし帰国子女の英語そのものでの証拠はまだ少ないので、断定はできません。

Q5. AI 英会話を続ければ、帰国後も英語は落ちませんか?
A. そう言い切れる研究はありません。帰国後も英語に触れ続けた子ほど言葉の使い方を保っていた研究はあります。ですが、AI の会話でその条件を満たせるかを確かめた研究は、まだ少ないのが現状です。

まとめ

帰国子女の英語は、日本に帰ったとたんに全部消えるわけではない。日本人帰国子女の研究では、帰国 1 年で物語の力に大きな変化は出ず、発音の変化は 5 年後に表れた。

一方で、帰国後も英語に触れ続けた子ほど、細かい言葉の使い方を保っていた。年齢の境目は研究ごとに違い、母語の研究と英語の研究を混ぜてはいけない。

幼い頃に失った言葉の痕跡は、研究によって結論が割れている。それでも、子どもの第二言語の研究では学び直しが 1 回目より速く、養子の研究では触れたことのない人より速く覚え直せた。学校で習った外国語が何十年も残ったという研究もあり、大人の英語の学び直しには希望がある。

「必ず消える」「一生残る」のどちらでもなく、触れ続けること、そして学び直しを恐れないこと。それが今の研究から言える、いちばん確かな見通しだ。

参考文献

  1. Reetz-Kurashige, A. (1999). Japanese returnees’ retention of English-speaking skills: Changes in verb usage over time. In L. Hansen (Ed.), Second Language Attrition in Japanese Contexts (pp. 21-58). Oxford University Press. https://doi.org/10.1093/oso/9780195123043.003.0002
  2. Tomiyama, M. (1999). The first stage of second language attrition: A case study of a Japanese returnee. In L. Hansen (Ed.), Second Language Attrition in Japanese Contexts (pp. 59-79). Oxford University Press. https://doi.org/10.1093/oso/9780195123043.003.0003
  3. Taura, H. (2019). Attrition studies on Japanese returnees. In M. S. Schmid & B. Köpke (Eds.), The Oxford Handbook of Language Attrition (pp. 390-402). Oxford University Press. https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780198793595.013.31
  4. Laméris, T. J., Kubota, M., Kupisch, T., Cabrelli, J., Snape, N., & Rothman, J. (2025). Language change in Japanese–English bilingual returnee children over the course of five years: Evidence from accent-rating. Second Language Research, 41, 191-216. https://doi.org/10.1177/02676583241230854
  5. Kubota, M., Chondrogianni, V., Clark, A. S., & Rothman, J. (2022). Linguistic consequences of toing and froing: Factors that modulate narrative development in bilingual returnee children. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 25, 2363-2381. https://doi.org/10.1080/13670050.2021.1910621
  6. Alraddadi, H., Aveledo, F., Hangelbroek, R., & Treffers-Daller, J. (2025). Paying attention to verb-noun collocations among returnees and heritage speakers: How vulnerable are L2 English collocations to attrition? Bilingualism: Language and Cognition, 28, 563-576. https://doi.org/10.1017/s1366728924000610
  7. Larson-Hall, J. (2017). L2 lexical attrition and vocabulary re-learning in three L1 English L2 Japanese children. Vocabulary Learning and Instruction, 6(2), 1-7. https://doi.org/10.7820/vli.v06.2.larson-hall
  8. Bylund, E. (2019). Age effects in language attrition. In M. S. Schmid & B. Köpke (Eds.), The Oxford Handbook of Language Attrition (pp. 276-287). Oxford University Press. https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780198793595.013.23
  9. Pallier, C., Dehaene, S., Poline, J.-B., LeBihan, D., Argenti, A.-M., Dupoux, E., & Mehler, J. (2003). Brain imaging of language plasticity in adopted adults: Can a second language replace the first? Cerebral Cortex, 13(2), 155-161. https://doi.org/10.1093/cercor/13.2.155
  10. Pierce, L. J., Klein, D., Chen, J.-K., Delcenserie, A., & Genesee, F. (2014). Mapping the unconscious maintenance of a lost first language. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111, 17314-17319. https://doi.org/10.1073/pnas.1409411111
  11. Choi, J., Broersma, M., & Cutler, A. (2017). Early phonology revealed by international adoptees’ birth language retention. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114, 7307-7312. https://doi.org/10.1073/pnas.1706405114
  12. Bahrick, H. P. (1984). Semantic memory content in permastore: Fifty years of memory for Spanish learned in school. Journal of Experimental Psychology: General, 113(1), 1-29. https://doi.org/10.1037/0096-3445.113.1.1
  13. Torsh, H. I. (2025). The digital shift in parental strategies for heritage language maintenance. Journal of Multilingual and Multicultural Development, 47, 2855-2871. https://doi.org/10.1080/01434632.2025.2491607

最終更新日: 2026-11-02

著者: 中村 拓(Taku Nakamura)(greencafe 編集部 編集責任者・非ネイティブ話者)。公開された 13 件の研究エビデンス(tier 1=8 / tier 2=5)を横断分析・再構成した。

画像: いらすとや (https://www.irasutoya.com/) より

この記事を編集した人

中村 拓(Taku Nakamura)のポートレート

(編集責任者 / 応用言語学・第二言語習得 エディター(非ネイティブ話者))

応用言語学のバックグラウンドを持つ英語学習分野のエディターで、査読済み SLA 論文・応用言語学ジャーナル・公的機関資料の横断要約と再構成を担当する編集責任者です。非ネイティブ英語話者で、大人の英語学び直しを研究の視点で編集しています。

編集した記事: 157 本

この編集者が編集した他の記事を読む / 運営者情報・編集方針

公開日: / 最終更新:

タイトルとURLをコピーしました